城北法律事務所 ニュース No.56(2007.8.1)

憲法改正は最大の税金の無駄遣い
一番の目的は戦争ができる国づくり

弁護士 田場暁生

この参議院選では、憲法改正の是非はあまり大きな争点とはなりませんでした。「年金問題」などと違って、国民が切実に改憲を必要としていないこともその理由としてあるでしょう。しかし、今後数年間に亘り、憲法改正が国政の重要な争点となることは間違いありません。

憲法改正の一番の目的が、9条を改定して自衛隊を海外に出せるようにすること、これはアメリカ政府や日本の財界首脳が要求してきたことなどから明らかです。そして、安倍政権発足後のこの1年弱、この目的に向けて、「愛国心」を法律で強制する教育基本法改定、憲法改正手続法(国民投票法)制定など、戦後どの内閣でも成立させることができなかった重要法案2つが、いずれも数の力で強行採決されました。また、『「慰安婦」の(狭義の)強制連行はなかった』として戦争責任を矮小化しようとする首相答弁、「沖縄戦の集団自決は日本軍に強いられた」とした教科書記述が書き換えられたこと、防衛大臣の「原爆投下はしょうがない」発言など、先の戦争を正当化し、国内外の被害者を侮辱する言動も相次ぎました。これらの動きは、いずれも、侵略戦争に対する真摯な反省から国際公約としての9条を中心に「非戦」を誓った日本国憲法を変えようという動きに直結しています。

日本国憲法が誓った「非戦」という基本姿勢は、戦後日本が「平和国家」として出発をはかる根底となるとともに、戦後日本経済の発展の支えとなりました。9条の理念は経済的な合理性をも有しているのです。しかし、9条を改正して自衛隊を堂々と海外に出せるようになった場合、国民の生活がさらに圧迫されることは確実です。アメリカ政府はイラク戦争を始めて莫大な赤字を抱え、海外派兵・軍備増強によって儲かっているのは軍需産業だけです。日本の政府与党は、憲法を改正して最大の税金の無駄遣いをしようとしているのです。国際社会は日本に対して自衛隊を海外に出すような「国際貢献」を求めているのでしょうか? それを求めているのは、アメリカ政府をはじめとするごく一部だけです。

いよいよこの夏から、国会に憲法審査会が設置され、改憲に向けて本格的な動きが始まります。9条をはじめとして、「税金の無駄遣い」という観点から憲法改正について考えてみたいと思っています。


コラム
刑事裁判はリンチの場ではない~刑事弁護人の役割とは~

「光市の事件の弁護人は許せない」として、日本弁護士連合会には同事件について「被告人を死刑にできないならば弁護人らを処刑する」とする脅迫文などが送られてきているようです。

そもそも、なぜ被告人には弁護人が付くのでしょうか。裁判とは、「被告人が罪を犯した」、「人を殺すなんて悪いやつだ」などとして処罰を求める検察官と、それに対して「やっていない」もしくは「殴ったのは確かだが殺意はなかった」などとして、被告人の防御権を保障する立場に立つ弁護人の双方が言い分を尽くす中、第三者である裁判官が判断をする、というシステムになっています。これは、中世の魔女裁判などの苦い経験から、対立した当事者に充分に言い分を尽くさせる中で真実を発見しようという人類の知恵の到達点の一つです。

もっとも、そのようなシステムであるにもかかわらず、最近でも鹿児島や富山などで警察・検察・裁判所によって冤罪が作り出されています。「痴漢冤罪」と言われる事件も少なくありません。このように司法は、現在でも大きな問題を抱えた状況であるにもかかわらず、「こんな悪いやつは早く死刑にすればいい」「なぜ弁護人はあんなことを言うんだ」などとして被告人の言い分を充分に尽くさせる機会を設けない、弁護権など保障しないくてもいいんだ、という風潮が広がれば、裁判とは真実を明らかにする場ではなく、単なるリンチの場になってしまいます。

冤罪を防ぐためにも、事件の真相を明らかにするためにも、しっかりと被告人の言い分を主張することは重要な弁護人の役割であり、そして自由な社会が実現されるための基礎的な要素なのです。
(田場)