城北法律事務所 ニュース No.72(2015.6.1)
目次
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- 1 (2014年12月1日 第1回連続憲法講座から)日本国憲法がある日本に生きる私たち ─事務所創立50年記念憲法企画やっています─
- 2 (2015年1月26日 第2回連続憲法講座から)アスベスト訴訟 ~憲法の理念に沿った判決を~企業の横暴と国の無策を許さない
- 3 (2015年3月4日 第3回連続憲法講座から)憲法は子ども・子育てを守るマタハラ被害者と現役保育士の声を聞いて
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- 1 改憲阻止へ向けて憲法破壊を許すな!
- 2 法整備と表現の自由 ヘイトスピーチの規制をめぐって
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- 1 城北法律事務所創立50周年にあたって~城北法律事務所の50年のうえに~
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- 1 【50周年を振り返る】これからもよろしくお願いします
- 2 【50周年を振り返る】この池袋の地に根を張って
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- 1 ひとこと
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- 1 ノーモアミナマタ東京訴訟始まる~追加提訴も続々~
- 2 原発福島の今
- 3 「ブラックバイト」ご存じですか学生にも広がる過酷な労働
- 4 今こそ給費制の復活を!~人々の役に立つ司法を実現するために~
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- 1 新しい所員を紹介します依頼者の心に寄り添って
改憲阻止へ向けて
憲法破壊を許すな!
弁護士 工藤裕之
安倍政権は、2014年7月1日に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行いました。集団的自衛権とは、我が国(日本)に対する武力攻撃が発生した場合だけでなく、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に」(これを「存立危機事態」といいます)、武力の行使をする権利をいいます。従来、自民党政権は、内閣法制局による憲法9条の解釈として、個別的自衛権は認められるが、集団的自衛権は認められない(憲法9条に違反する)という解釈を一貫してとってきたにもかかわらず、閣議決定によって180度転換したことになり、到底許されないと考えます。
そして、この閣議決定を受けて、安倍政権は、自衛隊が世界中のどこにおいても武力行使や活動ができるように「戦争法制」を整備しようとしているのです。
数多くの問題がありますが、重要な点について、具体的に見ていきたいと思います。
①「存立危機事態」(=集団的自衛権)を、武力攻撃事態法に取り込み、同法を改「正」しようとしています。これは、たとえばアメリカがどこかから武力攻撃を受けたと主張すれば、自衛隊がその「どこか」に対し武力攻撃することが認められることになりかねず、そうなると、日本がその「どこか」から反撃される重大な危険が生じます。「存立危機事態」は一見厳格に見えますが、そのときの内閣によりいくらでも拡大解釈が可能になり何の歯止めにもなりません。
②また、周辺事態法から「周辺」を削除するなどの重大な改「正」をして、自衛隊の他国軍への支援活動を「我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」(これを「重要影響事態」といいます)、すなわち地球規模まで大幅に拡大しようとしています。
③しかも、恒久法である国際平和支援法を制定して、「非戦闘地域」という限定を外し、「戦闘現場でない場所」であれば自衛隊の活動を認めて、戦闘行為を行っている他国軍の後方支援を可能にしようとしています。
さらに、PKO協力法を改正して、PKOに派遣された自衛隊が「駆けつけ警護」などを行うことを可能にするだけでなく、何らかの国連決議があれば、国連の統括しない人道復興支援活動や治安維持活動に参加することまで認めており、より重大なことに、武器使用を攻撃されなくても発砲できる「任務遂行のための武器使用」まで拡大しています。
④安倍政権は、こうした憲法破壊の「戦争法制」にかかわる法案を今国会で成立させることを狙っており、広範な人たちと共同して何としても食い止めましょう。
法整備と表現の自由 ヘイトスピーチの規制をめぐって
弁護士 種田和敏
ヘイトスピーチとは?
ヘイトスピーチとは、憎悪に基づく差別的な言動をいいます。人種や宗教、性別、性的指向など自ら能動的に変えることが不可能な、あるいは困難な特質を理由に、特定の個人や集団をおとしめ、暴力や差別をあおるような主張をすることが特徴です。
日本では、2013年以降、インターネット上での書き込みや、新大久保を中心としたデモなど、ヘイトスピーチが社会問題となっています。
ヘイトスピーチをめぐる情勢
この点、国際人権規約は、差別扇動の言動は法で禁止すると定めています。また、人種差別撤廃条約は、ヘイトスピーチを禁止するだけでなく、禁止に反する言動を犯罪として処罰することを条約加盟国に求めています。そのため、ヨーロッパを中心に、ヘイトスピーチを禁止する法律を設けている国があります。
他方、日本は、現時点において、人種差別撤廃条約を批准しながらも、差別の禁止と刑事処罰をすべきと規定する上記条文は留保し、ヘイトスピーチを特別に取り締まる法律を制定していません。もちろん、ヘイトスピーチは、名誉毀損罪(刑法230条)などに該当し犯罪となる場合や、不法行為(民法709条)により損害賠償を請求できる場合もあります。しかし、現実的には、ヘイトスピーチの対象が特定の個人でない場合が多く、現行の法律では規制が難しいこともたしかです。
この現状に対し、日本でもヘイトスピーチを規制する立法を求める動きも盛り上がりをみせています。そして、国連の人種差別撤廃委員会は、2014年8月、日本に対し、ヘイトスピーチを行う者を処罰できるようにするとともに、インターネットなどにおけるこの種の表現に対しても適切な措置を取るように求める勧告を発しました。
表現の自由との関係
以上の情勢を踏まえ、今後、ヘイトスピーチに対する法規制を検討する場合、忘れてはならない視点が表現の自由(憲法21条1項)との関係です。
表現の自由は、個人の人格的尊厳にかかわる人権であるとともに、国民の政治参加の前提をなす権利であり、基本的人権の中でも重要な権利です。ヘイトスピーチに対する規制は、表現の自由に対する規制の側面を持ちます。特に、その規制が表現の内容如何で、当該表現を規制するもの(内容規制)であることについて、注意が必要です。
為政者の暴走を止める役割を担う憲法、中でも特に重要な表現の自由について、政府が恣意的な規制をする危険性があることを忘れてはなりません。
ヘイトスピーチに対する法規制についての議論をするときには、このように表現の自由との関係で、緊張関係があることを、私たちは主権者として、よく把握しておく必要があります。
ヘイトスピーチに対する法規制を口実に、「アメリカ軍は沖縄から出ていけ!」というデモが禁止され、逮捕者が出ることも杞憂と言い切れません。