城北法律事務所 ニュース No.72(2015.6.1)

(2014年12月1日 第1回連続憲法講座から)
日本国憲法がある日本に生きる私たち 
─事務所創立50年記念憲法企画やっています─

弁護士 田場暁生

戦後70年、事務所も創立50年になります。私は、事務所の憲法委員会委員長を務めていますが、50周年記念として7月3日の大イベントまで連続憲法企画を開催しています。

弁護士を一時休んで米国に留学し、5年前に帰国しました。私はもともとロックミュージシャンになりたかったこともあり、アメリカには憧れがあります。帰国直前には米国南部を旅してブルーズとジャズ縁の地を巡りました。アメリカのロースクールでは、アメリカ憲法を学び、表現の自由がかの地に根付いていることを感じました。もっとも、アメリカ憲法には、日本国憲法で規定されているような、生存権・教育を受ける権利・労働基本権などが規定されていません。それゆえ、アメリカでは、貧しい人・労働者などが「これらの憲法上の権利を侵害された」ということを直接の理由に裁判を起こすことは困難です。「戦争放棄」した日本の9条のような規定もありません。

生存権なども含めて世界の憲法でいま主流の人権の上位19項目をすべて満たすのは日本国憲法のみです。先の大戦についてはしっかり責任をとる必要があると考えますが、それでも戦後日本が成し遂げた、経済発展と平和的な国際貢献は日本国憲法があってこそです。私たちはこのような日本国憲法がある日本に生きています。

城北法律事務所50周年記念連続企画では、平和に生きる権利、教育を受ける権利、労働者の権利などをテーマとした講座を開催しています。7月3日には海外戦争法に反対する50周年記念大イベントを行います。憲法違反の海外戦争法の成立を狙う安倍政権に抗い、世界のトップランナーである日本国憲法を活かすため、行動したいと思います。


(2015年1月26日 第2回連続憲法講座から)
アスベスト訴訟 ~憲法の理念に沿った判決を~
企業の横暴と国の無策を許さない

弁護士 松田耕平

第2回憲法講座では「企業の横暴と国の無策を許さない」と題してアスベスト訴訟についてお話しました。一言に「アスベスト訴訟」といってもその中身は多様なのですが、今回は石綿紡織工場で働いていた方が原告の中心である「泉南アスベスト訴訟」と、建設現場で働いてきた方が中心の「建設アスベスト訴訟」についてでした。泉南訴訟は国だけが相手方であり、まさに「国のアスベスト被害に対する無策の責任」が問われた事案です。他方、建設訴訟は国とアスベスト建材を製造販売してきた企業(大手40社以上)を相手方としていて、国の無策に加えて「アスベスト建材を製造販売し続けてきた企業の責任」をも問う事案です。

国の責任については、泉南訴訟弁護団の「国は知ってた、できた、けどやらなかった」というスローガンに沿って、①国がアスベストの危険性を充分に知っていた、②働く人たちがアスベスト粉じんを吸わないようにする対策をとることが充分にできた、③それにもかかわらず、国はほとんど有効な措置(規制)をとらなかったことを、実例を踏まえてお話ししました。現在、国の責任は泉南・建設訴訟とも認められています。残るは企業の責任です。企業もアスベストの危険性を知っていて、これを防ぐ対策ができたにもかかわらず、ほとんど何もやらなかったという点では国と全く同じです。ですが難しいのは因果関係。これを簡単に説明するのは難しいので割愛しますが、企業の責任がはっきりしているのに、因果関係を理由に企業の責任を否定することは、労働者の働く権利等を保障する憲法が許すはずがありません。アスベスト被害を根絶し、皆が安心して働けるようにするためにも、憲法の理念に沿った判決が求められるのです。


(2015年3月4日 第3回連続憲法講座から)
憲法は子ども・子育てを守る
マタハラ被害者と現役保育士の声を聞いて

弁護士 大八木葉子

憲法講座の第3回は、妊娠・出産・子育て(保育制度)に焦点を当てました。

前半は、妊娠・出産に関し、法律は整備されていても現実には深刻な社会問題となっているマタニティ・ハラスメント=「マタハラ」を中心にお話しました。

法制度の内容(使える制度がたくさんあります)や、昨年10月23日のマタハラ最高裁判決(最高裁は、妊娠や出産を理由に女性労働者を降格させることは男女雇用機会均等法違反で無効であるとし、この例外は、①女性労働者の自由な意思に基づく承諾が認められる場合、②業務上の必要性などから特段の事情が存在する場合としました)などのお話をしました。

さらに、マタハラ被害に遭い、勝利的和解を勝ち取ったMさんから、被害に遭った時の気持ちや現在の活動内容(同じような被害をなくすためという思いでマタハラネットで活動されています)などの話をしていただきました。被害者の方の生の声というのは重みがあり、参加された方の心に強く訴えるところがあったと思います。質疑応答の時間には、たくさんのご意見やご質問をいただきました。

後半は、加藤幸弁護士が「子ども・子育て支援新制度」について、現役保育士さんであり「こどもみらいプロジェクト」の靏本(つるもと)さんと具体的にお話しました。この新制度は、一見、子育て環境改善や待機児童対策に資するように思えますが、実際は、経済対策であり、「子どものため」という視点が置き去りにされている制度であることなど説明しました。

参加された方からは、この制度に関してもたくさんのご質問などをいただきました。