城北法律事務所 ニュース No.72(2015.6.1)

ノーモアミナマタ東京訴訟始まる
~追加提訴も続々~

弁護士 津田二郎

ノーモア・ミナマタ国賠訴訟は、2011年3月に国、熊本県、チッソと、歴史的な和解を成立させました。

国は、訴訟中の2009年に水俣病特措法を制定し、「救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済」(同法3条)するとしましたが、国、熊本県、鹿児島県は、救済基準を厳しく運用し、居住地域や出生年を不合理に線引きしたため、多数の被害者が救済の対象外となりました。

その上環境省は、2013年7月末日をもって特措法の申請受付も打ち切りました。このことで、多くの潜在被害者が切り捨てられました。この切り捨てられた被害者の救済を求めるのが本件訴訟です。

東京では、2014年8月に提訴した一陣(原告18人)の裁判が2015年2月から始まりました。また一陣に続けて二陣(同14人)も2月に提訴し、三陣も5月に提訴しました。2月の第一回口頭弁論には、約200人もの訴訟を支えるサポーターの方々に駆けつけていただきました。ありがとうございました。

原告の方の中には医師に診せたが別の病名をつけられて手術までした方もいます。それでも症状がおさまらないので不審に思って聞きつけた集団検診でようやく水俣病だと分かったのです。

このように潜在患者は多数存在します。すべての被害者を救済する制度の創設をめざして、がんばります。


原発
福島の今

弁護士 舩尾 遼

気が付くと福島第一原発事故から4年が経過しました。東京では、福島原発事故は過去のものとなりつつあり、年に1回、3月11日になると、マスコミが特集を組むため久しぶりに思い出す。そんな声をお客さんからよく耳にします。

福島に通っていると、原発事故が今も継続していることがよく分かります。テレビのニュースを見ていると一日に一度は原発関連の報道を目にしますし、地元新聞は連日原発関連の報道をしています。事故を過去のものとするための造語である「冷温停止」なる概念をつかい、あたかも事故が収束したかのように政府・マスコミは報道しましたが、まだ事故収束には程遠い現状です。

被災した当事者は、今なお借り上げ住宅に住み、定職につけない方が多くいらっしゃいます。自分の生まれ育った地域に帰還する目途は未だに立っていません。

原子炉の圧力容器の底を突き破った核燃料は、溶岩のように建屋の底に溜まり、これを回収する手段は確立されておらず、汚染水は垂れ流し状態、放射性物質は大気に放出され続けています。そのような状況で再稼働を認めていいはずはありません。

もう一度、「再稼働反対」の声を国と東電に東京から突きつける、そんな運動をしていきたいと思います。


「ブラックバイト」ご存じですか
学生にも広がる過酷な労働

弁護士 田村優介

「ブラック企業」という単語はかなり広まりましたが、「ブラックバイト」という単語はご存じですか。主として大学生のアルバイトに関して、「学業と両立できないような過酷な働かせ方」を指す言葉です。たとえば授業に出られないほど大量のシフトを入れられたり、試験期間も休むことができず、ひどいときには退学に追い込まれるといったケースもあります。また、自腹で商品を買わされたり、レジのお金が合わないときに弁償を求められるなどの違法な扱いも横行しているといいます。弁護士らで結成した「ブラック企業対策プロジェクト」で全国27大学の約4700人を調査した結果、バイト経験者約2500人の7割弱が勤務時間を無理に決められたり、契約時と労働条件が違ったりといった不当な扱いの経験があるとわかりました。

背景には、非正規雇用が拡大し、アルバイトにも「店長」など職場の中核的役割を担わせている現状があります。また、家庭に経済的余裕がないなかで進学した大学生などでは、収入をアルバイトに頼らざるを得ないことがあり、過度なシフトや自腹購入を断れなかったり、条件が悪くてもアルバイトを辞めにくい現実があるといえます。

不当・違法なアルバイトの取り扱いは、厚労省「総合労働相談センター」などが受け付けているほか、弁護士へもご相談ください。


今こそ給費制の復活を!
~人々の役に立つ司法を実現するために~

弁護士 野口景子

平日朝9時から夕方5時まで、裁判所、検察庁や法律事務所で過ごし、年に2、3回は転勤や長期出張も。アルバイトは原則禁止。でも、給料はゼロ。どこのブラック企業でしょうか?

これは、司法試験に合格した後、裁判官や検察官、弁護士(法曹三者といいます)になる前に義務付けられている実務研修を受ける人たち、司法修習生の話です。

戦後60年以上、修習生には国家公務員の初任給と同程度の給料が支払われていました。これが給費制です。

しかし、2011年11月、給費制は廃止され、修習生は借金生活を強いられるようになりました。最近は、公益的活動を重視する法律事務所より、給与待遇のよい法律事務所への就職を目指す修習生や、司法試験に合格したのに修習生になることを諦める司法試験合格者が増えています。

給費制廃止により、経済的に苦しい家庭の子どもたちが法曹三者になることを断念するようでは、司法がますます人々の感覚からかけ離れたものになると危惧されています。

また、借金をして法曹三者になった後も、特に弁護士については、社会的意義はあるけれど売上げに繋がらない仕事を避けざるを得なくなってしまうという現実もあります。

給費制は修習生だけの問題ではなく、市民一人ひとりの問題です。現在、給費制復活を求める裁判署名を実施しています。ぜひご協力お願いします。