城北法律事務所 ニュース No.74(2016.8.1)

改憲反対特集 安保法制廃止・戦争する国づくりを許さない

憲法9条を考える連続企画
日本国憲法の持つ先駆的意味を学ぶ

弁護士 田場暁生

城北法律事務所は、創立以来50年以上、平和憲法の精神を活かし発展させ、市民の平和な暮らしと権利を守る活動を続けてきました。

自衛隊が海外で戦争することを可能にする戦争法制の審議が本格化した昨年7月には、創立50周年記念企画「戦後70年 今こそ平和憲法とともに立つ-私たちは海外戦争法に断固反対します-」を開催し、600名を超える皆さんに参加していただきました。

昨年9月の戦争法制成立後、立憲主義、民主主義、平和主義を取り戻すたたかいの一環として、今年「戦争法廃止へ いま憲法9条を学ぶ連続企画」を開催しました。連続企画では、①イラク戦争の現実を描いた映画『イラク チグリスに浮かぶ平和』上映会&綿井監督トーク、②米軍基地が集中する沖縄の不条理をえぐり出す糸数参議院議員とSEALDsの元山さんトーク、③横須賀米軍基地の見学バスツアー及び米兵強盗殺人事件で妻を失った方の講演、④米中関係を踏まえた北東アジアの平和をテーマとした浅井基文元外務省中国課長の講演会を行いました。

連続企画を通じて、戦争や軍事組織の現実を知るとともに、改めて憲法9条の武力行使放棄や戦力不保持の意義、そして9条の元での外交・安全保障のあり方、日本国憲法が持つ世界史的、先駆的意味などを学びました。

法律家は憲法解釈などの形式論理を重視しがちです(こんなことを言うと怒られるかもしれませんが)。もちろん憲法違反は許されませんが、憲法適合性だけを考えていたのでは、実質的な議論にならないことも少なくありません。たとえば、9条の問題であれば、あるべき外交や安全保障のあり方を考え、それと9条がマッチしているのかについても考える必要があると思います。戦争法制は「違憲だから許されない」だけではなく、「海外で積極的に戦争に参加することは、信頼醸成型の日本の国際協力のあり方を大きく転換するもので間違っている」といったような議論です。これからは、このような議論がいわゆる「護憲派」にも求められるのではないでしょうか。

今回の企画にあたっても、イラクや沖縄の現実、中国脅威論とは何かなどできるだけ多角的な視点から平和や安全保障、戦争を考える機会にしたいと思い準備しました。 

毎回定員を超えるお申し込みをいただくとともに、「次の企画を楽しみにしていた。終わるのが寂しい」、「多彩な企画でとても刺激になった。ぜひまたやってほしい」「地域で弁護士がこういう取り組みを継続的にしていることにとても勇気づけられる」などの期待が寄せられました。

先の参議院議員選挙では「改憲勢力」が3分の2の議席を占めました。安倍政権は国民の反対が強い憲法9条ではなく、「災害対策」と称して「耳障りの良い」緊急事態条項の導入という形で憲法改正を画策するでしょう。知恵を絞って、戦争法制を廃止し、憲法改正に抗っていきたいと思います。


自民党改憲草案の危険性
国民は危機感を持った対応が必要

弁護士 種田和敏

憲法の一番大切な役割は、何か? それは、私たち国民が主権者として憲法によって政治をする人をしばっていることです。権力を憲法で制限すること、まさに立憲主義とも表されますが、政治をする人が憲法を守って政治をすること、それが憲法の肝です。

現行の日本国憲法には、以下のとおり、政治をする人が憲法を守らなければならないことが明示されています。

【日本国憲法第99条】

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

これに対し、戦前の大日本帝国憲法では、天皇主権の下で、憲法はむしろ国民をしばる道具でした。つまり、昔は、主権者である天皇が憲法を利用して国民をしばっていたといえます。その結果、天皇のために、国民は生命や財産を犠牲にせざるをえない状況にありました。

この点で、注目すべきは、2012年4月に発表された自民党の改憲草案には、日本国憲法第99条に対応する以下の条文があります。

【自民党改憲草案第102条】 

全ての国民は、この憲法を尊重しなければならない。
国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

ここで注目しなければいけないのは、自民党の改憲草案では、国民が憲法を守る主体になっていること、天皇が憲法を守る主体から外れていることです。国民が政治をする人を憲法でしばっているという立憲主義の観点からは、国民がしばる主体から、しばられる主体に変更になっていることに、主権者たる国民としては、大いに危機感を持たなければなりません。

また、現行の憲法では、先に紹介したとおり天皇が憲法を守る主体の先頭に明記されていますが、それは第二次世界大戦の経験を踏まえてのことです。それにもかかわらず、自民党の改憲草案では、天皇が憲法を守る主体から外されています。私たちは、第二次世界大戦での甚大な人的・物的被害に思いをはせ、天皇が政治利用され、戦争遂行に利用されることを大いに警戒しなければならないと思います。

このように、自民党の改憲草案には、現代憲法の原則に反する危険性のある条文が多々あります。私たちは、この国のあり方を決める権限のある主権者ですが、同時に、この国の未来に責任を持っています。政治家を信頼することも大切ですが、未来に責任のある私たちとしては、政治家の言動を懐疑的に見て、一人一人が責任ある選択をしていかなければなりません。

なお、私事で恐縮ですが、昨年5月3日に『だけじゃない憲法』という憲法の本を出版しました。こちらも憲法を知る一助としてご利用いただければ幸いです。