男女共同参画社会の実現
真の男女平等社会を実現するために
弁護士 大八木 葉子
昨年は、事務所創立40周年を迎え、連続憲法講座でお話しする機会がありましたが、参加されなかった皆様にも是非聞いて頂きたい話があり、この場でご紹介致します。
連続憲法講座では、典型的な女性差別としてセクハラと妊娠リストラ、そして真の男女平等を実現するために必要な男女共同参画社会の実現の話をし、原告となったMさんにも来てもらいました。
パート社員のMさんは、妊娠したことと緊急入院が必要なことを会社に告げたところ、「退職扱いになる」との説明を受け、一部空欄にして置いてきた退職届用紙に、店長に無断で書き込まれ、本社に提出されてしまいました。
Mさんは、会社の扱いに疑問を感じ、インターネットで男女雇用機会均等法や労働基準法の母性保護措置について調べ、さらに、暑い中、身重の体で東京都の労働基準局に行きました。思うような解決を得ることはできず、訴訟を提起し、訴訟中に無事お子さんを出産し、「会社が法規を遵守し、妊産婦の働き続ける意向を尊重し、その働きやすい職場環境の維持・改善に努めるものとする」との条項を含む勝利的和解を勝ち取りました。
パート社員であるMさんに対しては、「正社員でもないのに、そこまでしなくても」という意見もあったようですが、Mさんを支えたのは、「あのつらく悔しい悲しい思いは他の女性に味わわせたくない」という強い思いでした。妊娠や出産を理由に仕事を続けられなくなる女性は多く、その多くの方が泣き寝入りをしている現状に対し、Mさんは、「これからは、女性が妊娠しても安心して働き続けることができるように」との思いから、辛くても諦めなかったのです。
その後、Mさんの強い思いは、実を結び、Mさんの会社及びその親会社は、女性に働きやすい職場に変わったということでした。
Mさんが諦めることなく闘い続けることで、職場が変わりました。多くのMさんが諦めることなく闘い続けることで、多くの職場が変わっていくと思います。このことを是非多くの方々に知って頂きたいと思っています。
―板橋高校卒業式事件―
えっ、これが「犯罪」ですか?
弁護士 小沢 年樹
この1年間に取り組んできた刑事事件の中で、今もっとも「熱い」公判中の事件のご紹介です。
2004年3月、都立板橋高校の卒業式が行われました。卒業生の心のこもった合唱など、参列した誰もが「いい卒業式だった」と感じた立派な式でしたが、例年とひとつだけ異なるのは、学校での君が代斉唱を強力に推進している都議会議員が参列し、その取材のためにTBSのカメラが学校内に入っていたことでした。そして、式開始直後の君が代斉唱時には、大部分の卒業生は着席しましたが、これはそれまでの板橋高校卒業式では普通の出来事で、数年前までは君が代の斉唱そのものが式次第にはなかったのです。
ところが、この様子を間近に見たくだんの都議は、のちに都議会で卒業生不起立の「犯人」探しをするよう都の教育委員会に求め、都教委もこれに応じて「犯人」の「調査」を行うに至ります。やがて、卒業式に来賓として参加しようとしていた元教員Aさんが、卒業式開始前に保護者(卒業生は入場前だった)に対して「この卒業式で君が代斉唱時に立って歌わない教員は処分されてしまいます」と呼びかけたことがやり玉にあげられ、Aさんは「威力業務妨害罪」の犯人として自宅を家宅捜索され、あげくに2004年12月には起訴されてしまったのです。
この「事件」と「起訴」はマスコミでも報道されましたが、板橋高校は城北法律事務所の地元にあり、4名の所員が弁護団として奮闘中です。毎回、東京地裁の大法廷が傍聴者で満員になっていますが、検察官が5名も出席し、警察の捜査でもきわめて多数の関係者から調書が取られていたなど、多額の税金と人材が費やされています。
弁護団は、「思想・良心の自由を守りたい」「教育現場が窮屈になってしまうのは困る」など、それぞれの思いで裁判を進めていますが、「なぜ、こんなささいな訴えを『犯罪』視し、貴重な税金を投入して大騒ぎするのだろう」との素朴な感情は全員共通です。誰かが傷ついたわけでも物が壊されたわけでもなく、卒業式は立派に挙行されたのに、開式前に保護者に対してほんの短時間だけ呼びかけた元教員を、なにがなんでも「犯罪者」として処罰しようとするのは、まるで人々の自由が奪われたどこかの国の話ではないか、と錯覚するほどです。
君が代については、国歌として誇りを持つ人、自分からはあまり歌ったことのない人などさまざまでしょう。ただ、「こんなことが『犯罪』にされるのはおかしい!」との感覚を、できるだけ多くの方に共有していただければ、と念じています。