薬害イレッサ訴訟 高裁で不当判決
弁護士 阿部哲二
昨年11月15日、東京高等裁判所は国と企業の責任を認めた一審東京地方裁判所の判決を取り消し、原告の請求を全面的に棄却する判決を言い渡しました。
この判決は、2002年7月のイレッサ承認時点で、イレッサの副作用による死亡が「疑われる」症例はあったものの、死亡したと「認められる」症例はなかったとして、添付文書で警告欄を設けるなどする義務はなかったとしたものです。同じ主張と証拠を検討しながら、わずか半年前に国・企業の責任を断罪した一審判決と全く逆の結論を出すのですから、裁判はある意味予測困難です。
しかし、この高裁判決は、疑わしい段階で対策を取らないと公害・薬害の被害発生と拡大は防げないという予防原則を否定する誤った判決であることは確かです。
法治国家のもとでは、時に裁判所の姿勢に愕然としながらも、裁判所を変えていく気概を持ち続けて闘っていくしかありません。判決の2日後に原告団は上告手続きをとりました。
薬害イレッサの闘いは、ついに最高裁まで上がって8年目に入ります。もう一度、エンジンのかけ直しです。ノーモア・イレッサ、薬害の根絶に向けて、改めて一人でも多くの方の理解を得るよう努力したいと思います。
B型肝炎訴訟 和解手続が始まりました
弁護士 田場暁生
夏のニュースで小沢弁護士がお知らせしたとおり、昨年6月、B型肝炎訴訟について原告団・弁護団と被告国との間で基本合意が締結されました。本訴訟は、国による予防接種の注射器使い回しの放置が原因となってB型肝炎ウイルスに感染した被害者が原告となっている国家賠償訴訟です。原告団・弁護団は当初の国の提示を大幅に上回る救済内容を勝ち取りました(死亡・肝がん・重度の肝硬変:3600万円、軽度の肝硬変:2500万円、慢性肝炎1200万円、無症候性(発症していない)キャリア:50万円+将来の検査費用・交通費等の助成)。現在、全国で2000名を超える原告が提訴し、順次和解が成立している状況です。
原告団・弁護団は被害賠償とともに、今後こうした悲劇が引き起こされた真相を究明する第三者機関の設置、予防接種被害者を含むより広いB型肝炎ウイルス感染者・患者への医療費助成などの恒久対策の推進などを目的として引き続き運動を進めていく予定です。厚労省試算では、全国で約40数万人が予防接種によってB型肝炎ウイルスに感染したとされています。救済を受けるには裁判を起こすことが必要です。裁判についてのお問い合わせは、城北法律事務所までご連絡ください。
ライブドア集団訴訟 東京高裁で逆転全面勝訴
弁護士 大川原 栄
東京高裁第9民事部は、昨年11月30日、東京地裁判決(請求の30%認容)を大幅に変更する逆転全面勝訴判決(請求の95%認容)を言い渡した。東京地裁に提訴して5年を経過した後の全面勝利判決である。
6年前の2006年1月、東京地検特捜部が「六本木ヒルズ」のライブドア本社に強制捜査に乗り出したことにより本件が発覚し、その後の過程で多くの個人投資家が甚大な損害を被った。その時代は、未だ株式被害についての「自己責任論」が主流であり、多くの個人投資家は被害者でありながら周囲から冷たい好奇の目で見られていた。
しかし、本件発覚後もIHI等を含む少なくない上場会社での粉飾決算を含むコンプライアンス違反等が明らかになり、今や粉飾決算等による株価下落被害は「自己責任論」の射程外であるということが定着した。
今回の東京高裁判決は、司法と社会の大きな流れを確実にするものであり、高裁判決の勝訴判決を笑顔で受け入れた被害原告の顔を思い浮かべながら、この事件に関われて心から良かったと思っている。
薬害イレッサ事件を通して がん患者が大切にされる医療を願って
弁護士 加藤 幸
薬害イレッサ事件において原告と弁護団は、裁判の解決だけでなく、がん患者の権利の確立や医薬品副作用被害救済制度の創設を求めています。その中で様々な方から意見をお聞きするのですが、その中には「がんは治らない病だから仕方ない」「治療方法も限られているから仕方ない」という意見が少なからずあります。
確かに、がんは発症部位やステージによっては手術が難しく、短期間で死に至る場合もあります。しかし、そのこととがん患者の権利や命がないがしろにされていいこととはつながりません。
短いかもしれない命だからこそインフォームドコンセントを充実させ、どのような治療を受けるのか、どのような生活を送るのかを、正しい情報のもと患者が判断できなければなりません。また、思いがけない薬の副作用によって被害を受けることは防がなくてはなりません。
がんは、日本の死亡原因の第1位の疾病となっており、がんの罹患率も上がってきています。がん検診など予防体制を充実するとともに、がんになった場合に安心して治療を受けられる医療体制の拡充が必要です。そのために何が必要なのか、何ができるのか、考えていきたいと思います。