法律相談
◆退職勧奨
弁護士 大川原 栄
Q 退職勧奨(たいしょくかんしょう)というものがあると聞いたことがありますが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
A 退職勧奨とは、会社側が労働者に対し、「自主的に」あるいは「自分の意思で」、会社から退職することを働きかけることをいいます。一般的には、「希望退職を募る」という形式をとったり、また、「貴方はこの会社に向いていないから、別の道を歩んだ方がよい」というようないわゆる「肩たたき」ということで行われることもあります。
Q 退職勧奨を受けて会社を辞めた場合と会社から解雇された場合とは、具体的どのようなことが違うのでしょうか。
A 退職勧奨を受けて会社を辞めた場合には、あくまでも「自分の意思で」「自主的」に会社を辞めたことになりますので、労働基準法上の解雇予告手当(30日分)の支払いを受けることができず、また、雇用保険についても自己都合退職という扱いを受けることになります。
これに対し、解雇の場合には、会社が一方的に労働契約を解除するということになりますので、そもそもその解雇が法律的に有効かどうかという問題が発生しますし、解雇予告手当の請求や雇用保険における会社都合退職という扱いの請求も可能になりますので、両者は天と地ほどの違いがあるといえます。
<労働者側からの質問>
Q 会社から執拗に退職するよう迫られた場合には、どのように対応すればよいのでしょうか。
A 退職勧奨が一定の限界を超え退職を強く迫るような場合には、退職強要という違法行為になりますので、会社としてはそこまでにならないよう工夫してくるのが通常です。ですから、会社としてはじっくりといろいろな理由を付けて、また、時間をかけて退職を求めてきますので、そのようなことがあっても、絶対に「分かりました」とは言わないことです。
どうしても何らかの返事の必要性がある場合には、「考えさせて下さい」と言って会社側の話しを打ち切ることが大事です。その後に、同じ話しが繰り返されるようであっても、「辞める気はありません」ときちんと自分の意思を表明することです。
Q 会社から、「自主的に辞めない場合には解雇になることがあり、その場合には貴方に不利になるよ」と言われた場合にはどうすればよいでしょうか。
A 退職勧奨を拒否しても、それが解雇理由になることはありません。ですから、解雇するということであれば、理由を示して解雇通告を文書で出して下さいと求めることが大事です。現実に、解雇通告が出され、それに納得できない場合には、すぐにでもお近くの弁護士にご相談ください。
<会社側からの質問>
Q 会社として、今の不況下でどうしても人員整理をせざるをえない場合、退職勧奨という方法をとることは許されないのでしょうか。
A 会社の実情を丁寧かつ誠実に話をし、解雇予告手当の上乗せなどの一定条件を提示するなどして退職の話をすること自体が直ちに違法になるわけではありません。
しかし、上記のとおり、退職を強制するような対応は違法となりますので充分な注意が必要です。その上で、どうしても人員整理が必要という場合には、法律に反しない手順を踏むために、お近くの弁護士にご相談されるのがよいと思います。
裁判員裁判 弁護人を経験して
弁護士 白鳥玲子
裁判員裁判制度がはじまり、2012年5月21日で3年が経過しました。もしかしたら、本ニュースをお読みになられている皆さんの中にも裁判員を経験された方がおられるかもしれません。城北法律事務所では、私が2010年に、工藤裕之弁護士が2011年に裁判員裁判の弁護人を担当しました。
裁判員裁判といえば、証人や被告人に対する尋問、検察官や弁護士が裁判員の皆さんに法廷で働きかけるパフォーマンスといった法廷内のやりとりがなんと言っても重要です。映画やテレビドラマのような丁々発止のやり取りがなされることは残念ながら稀だと思いますが、以前の職業裁判官だけの法廷とはまったく違う緊張感が漂います。法律家だけでの「お約束」が通用しないことがあるからです。
たとえば、検察官・弁護士・職業裁判官のみで行われてきた従来の刑事裁判では、弁護士は被告人の反省している心を示し、罪を軽くするためにおこなう弁護活動、「被告人が若い」「被告人に前科前歴はない」などといったいわゆる有利な情状(事情)を主張し、執行猶予や減刑を求めてきました。しかし、一般市民の方からすれば「被告人が若いことや前科前歴がないことがなぜ被告人にとって有利になるのか」という根底部分から疑問に思われるため、ていねいに分かりやすく説明する必要があります。私は、裁判員裁判を通じて、法律家が当然のように使っている「お約束」や用語を分かりやすく伝える難しさを痛感しました。その後担当するあらゆる案件において、分かりやすい説明とはなにかを常に考えるようになりました。
また、法廷でのやりとりは、裁判員裁判の最終舞台であって、検察官、弁護士、裁判官は法廷を始める前に、公判前整理手続という綿密な打ち合わせを何回も行います。これには法廷での時間の何倍もの時間が費やされます。
裁判員裁判では、ともすると裁判員の負担を軽減することを目的に証拠の精査や主張の整理、尋問時間の制限などがなされます。担当案件で、刑事被告人の権利がないがしろになってしまっていないかと思うことがあったため、普段はおとなしい(?)私が、検察官や裁判官と口論になることもありました。
裁判員裁判に限らないことですが、検察官の手持ち証拠を弁護士に全面的に開示する法律改正など、冤罪を生まない仕組みづくり、刑事被告人の権利を決してないがしろにしない裁判運営が求められます。
言うまでもなく裁判員裁判は、刑事被告人の人生を左右するものです。裁判員として判決にかかわり、人ひとりの人生に多大な影響を及ぼすことになる責任は本当に重大です。
もし、あなたが裁判員に選ばれる日が来たら、重大さに押しつぶされることなく、職業裁判官の意見に流されることなく、被告人のこれまでの人生と、これからの人生と今回の罪とを真剣に考えてみていただきたいです。