(2013年2月19日 事務所セミナーから)
成年後見の活用法
弁護士 工藤裕之
1高齢化社会の進展等に伴い、病気などにより判断能力がなくなったり、不充分になった場合に、財産管理、療養看護について、その人の代わりに、契約するなどして、判断能力がなくなった人などを保護する制度が必要になってきます。これが成年後見という制度です。
城北法律事務所においても、今年の2月19日に、成年後見のセミナーを行いました。
成年後見については、かなり複雑ですが、ここではポイントだけお話ししたいと思います。
2成年後見には、大きく分けて、①法定後見といって、既に判断能力が減退した本人について、家庭裁判所が申立てに基づき、本人を保護するために、代理権・同意権・取消権を持つ成年後見人・保佐人・補助人を選任する制度と、②任意後見といって、本人に判断能力があるうちに、将来の判断能力の減退に備え、誰を代理人にして、どんな事務を委任するかを決め、公正証書により契約しておく制度があります。
細かく言うと、①のうち、成年後見人は代理権と取消権を有するが、保佐人は一定の重要な契約等について同意権と取消権を有するにとどまるなど、重要な違いがあります。かなり専門的な話になるので、これらについては、弁護士に相談していただければと思います。
3以上述べた①の法定後見と、②の任意後見の違いとして、どんなことがあるのかを簡単に見ていきたいと思います。
まず、法定後見の場合は、既に判断能力が減退していますので、本人が自分の保護者になる成年後見人等を自由に選ぶことはできません。家庭裁判所が親族等の意向を踏まえて選任することになります。これに対し、任意後見の場合には、本人が判断能力のあるうちに、任意後見契約を締結することになりますので、本人の希望で、信頼できる人を将来の自分の後見人に選任することができます。
ただし、任意後見の場合、後見人には、本人が不利益な契約をしてしまった場合に、取消権がないため、それを防ぐには、法定後見を利用するしかない場合も出てきます。両方の制度には、メリットもデメリットもあるので、注意する必要があります。
4そして、本人が死亡した場合には、後見は終了します。これは、法定後見も任意後見も同じです。
後見が終了した場合に、成年後見人などは、債権債務を精算した上で、残った財産を、本人の相続人に引き渡すことになります。
その際、本人の遺言があって、それに遺言執行者の定めがあれば、遺言執行者に財産を引き渡せば足ります。しかし、本人の遺言がなく、複数の相続人がいる場合に、どうすればいいかという問題も生じてくるのです。
ですから、成年後見の問題だけでなく、相続・遺言の問題もトータルに解決する必要があると痛感しています。
(2013年2月26日 合同セミナーから)
セクハラ・パワハラ・メンタルヘルス
弁護士 大山勇一
今年2月26日に、税理士法人第一経理と共同で「セクハラ、パワハラ、メンタルヘルス」事業者向けセミナーを開催し、舩尾遼弁護士とともに講師を務めました。少なくない事業所でトラブルが生じているということもあって、多くの事業者が参加されました。
まず、セクハラは派遣社員などの非正規労働者や新入社員、母子家庭など、立場の弱い労働者がターゲットになりやすいという特徴があります。そして、「労働者が業務を遂行する場所」であることが要件となりますが、取引先の事務所や忘年会や職場での運動会といったところも範囲に含まれる点に注意する必要があります。
また、「労働者の意に反する」という要件に関しては、「平均的な労働者の感じ方」が基準とされることがあります。しかし、性に対する言動や受け止め方には、個人間や男女間で差があることから、基本的には被害者本人を基準とするべきです。
次に、パワハラは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定義されています。その範囲は広く、暴行や暴言はもちろん、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制することも、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることもパワハラに該当します。
さらに、個人的なことがらに過度に関わることもパワハラにあたりますので、最近はやりのSNS「Facebook」で上司から友達申請されるということもパワハラにあたるとされる可能性がありますので注意が必要です。
私の取り扱ったセクハラ問題の事案では、30代の女性職員が上司から「お酌を要求される」「キスを迫られる」「二人きりでの食事に頻繁に誘われる」などの行為を続けられ、対人関係に恐怖を感じるようになってうつ病になったというケースがあります。内容証明郵便で会社に警告し交渉した結果、その会社はすみやかに上司を別事業所に異動させ、再発防止を誓約しました。
また別のパワハラ問題の事案では、50代の中間管理職男性が、社長から「おまえにはまったく能力がない」と、他の社員のいる前で連日叱責された結果、「適用障害」で出社不可能となったというケースがあります。
その後、会社がその男性を解雇してきたので労働審判を申立てました。裁判所は社長による行き過ぎた言動の違法性を認定し、合意退職と引き換えに年収分を支払わせることで調停が成立しました。
労働者の人格を否定するセクハラやパワハラは、その労働者に深い心身の傷を与えますが、周囲の労働者にとっても悪影響をもたらします。また、会社の生産性や士気を下げ、会社のイメージダウンにもつながります。
いま、労働者にも会社にもマイナスとなるセクハラ・パワハラの予防がますます必要とされています。