法律相談 遺言(2013年9月19日セミナーより)
遺言書はなぜ、必要となるのですか?
弁護士 白鳥玲子
相続は、法律上有効な遺言書があれば遺言書の内容に沿った方法で財産の分配が行われます。しかし、遺言書がなければ民法の規定にしたがった法定相続が生じるため、相続人が複数いる場合には、相続人全員による遺産分割協議が必要となり、相続人全員の合意がないと成立しません。いざ遺産分割を行うとなると、相続人間では各々の事情や思惑があり、スムーズに分割協議ができるとは限りません。そこで、遺産分割協議での相続争いを防止するため、遺言書を作成しておくことが大事です。
たとえば、相続をする側のお子さん達は幼いころは仲がよかったのに、大人になれば、収入の違い、教育費や住宅ローンの負担の違い、リストラなどによる所得減少の可能性など、種々の経済的事情を抱えている場合も多く、できるだけ多くの遺産を相続したいと考えることも充分ありえます。また、お子さん達が経済的に恵まれ、仲が悪くないとしても、忙しいお子さんたちを遺産分割で煩わせないために、遺言を残しておく方がよいことは間違いありません。
Q 特にどういう場合に遺言が必要ですか?
紙幅の関係で詳述できませんが、①子どもがいない場合、②子どもたちが互いに疎遠な状況にある場合、③前の配偶者との間に子どもがいる場合、④事業を誰かに継いでもらいたい場合、⑤自宅が唯一の遺産となる場合が挙げられます。
Q 遺言作成は弁護士に相談した方がいいですか?
遺言書は法律上有効なものでないと意味がありません。意思を反映した適切な内容かどうか、遺留分の侵害がないかなどの確認が必要です。また、遺言で「遺言執行者」に弁護士を選任しておけば、遺言を確実に実現することができます。遺言はとても大事なことですので、専門家である弁護士に相談した方が望ましいと思います。
法律相談 賃貸借(2013年9月25日セミナーより)
未然にトラブルを防ぐために
弁護士 武田志穂
先日の賃貸借のセミナーでは、舩尾弁護士とともに講師を担当させていただきました。
最近の賃貸借のご相談で多いと感じているのは、かなり昔から自分の両親や祖父母などが土地を借りてそこに建物を建てて住んでいるものの、両親等などが他界して相続人が契約関係を把握しておらず、突然の更新料の請求などに戸惑うというケースです。子どもに借地権を残す側は、契約書などきちんと保存しておき、また契約書に記載のない口頭での約束などについても、覚えている限度できちんと生前に伝える、メモを作成して残しておくなどの手段を講じておくべきだと思います。また、借地権を引き継ぐお子さんの側でも、ご両親がお元気なうちに、契約関係などきちんと確認しておくべきだと思います。
そして、長年借地上に建物を建てて住んでいたが、高齢となりこのまま一人住まいを継続するよりは、家を処分して老人向け施設に転居したいと考える方もそれなりにいらっしゃるようです。「私が出て行ったら、地主さんから立退料はどのくらいもらえそうですか?」というご相談も受けるのですが、立退料は基本的に借りている方に出ていく理由はないものの、地主の要望に応じて土地を明け渡して出て行く場合にいただけるものですので、借地人が自分の事情で土地を明け渡して出て行く際には発生しません。
また、借地権の期間が満了となり、そのまま更新せずに契約関係を終了する場合は、借地人は地主に建物を時価で買い取って欲しいという建物買取請求権を行使し、建物を時価で買い取ってもらうことができます。ただし、建物買取請求権は、契約期間の満了を待たずに、賃貸借契約を合意解約した場合は行使することはできませんので、その点はご注意ください。その場合は、土地を更地にして地主に明け渡す必要があります。
法律相談 特別受益
遺産の前渡しとは
弁護士 深山麻美子
Q 父が亡くなり、相続人は私と姉の2人で、遺産は1000万円の預金だけです。姉は法定相続分どおり半分ずつに分けるべきだと言っています。
しかし姉は、2年前に結婚の持参金として300万円を父から貰っていますし、姉だけが大学に進学しています。これらは遺産の前渡しとして、姉の相続分から差し引けないのでしょうか。他方私も、父から出産祝いや、子どもの入学祝いなどを貰っていますが、これも遺産の前渡しとして差し引かなければならないのでしょうか。
A 被相続人から生前に特別な受益(贈与)を受けた相続人がいる場合、民法は特別受益分を遺産に加算して相続分を算定するとしています。
従って、お姉さんが受けとった300万円を1000万円に加えた1300万円を相続財産とし、その2分の1の650万円が、お姉さんとあなたの相続分となります。お姉さんはその中の300万円を前渡しされているので、残り350万円だけを受け取り、あなたは650万円を受け取ることになります。
ただ、お父さんが「持戻免除の意思表示」をしていた場合は、持ち戻し計算はされません。たとえばお姉さんが長年父の世話をしてきたことから300万円を持参金として渡したような場合です。
なお、大学の学資は、特別に多額なものでなければ親の扶養義務の支出で特別受益ではなく、仮に特別受益と評価されても通常持戻免除の意思が推定されると考えられます。同様に、出産祝いや入学祝いなども、親として通常の援助の範囲内での贈与であれば特別受益にはあたらず、仮にあたる場合も特別な事情がなければ持戻免除の意思が推定されると考えられます。