共謀罪(テロ等準備罪)について
共謀罪によって監視社会になるというのは杞憂にすぎない?
弁護士 平松真二郎
共謀罪法では、特定の犯罪の「共謀」をしたという「意思」の連絡を処罰対象としています。これは、犯罪「行為」を処罰対象としてきたこれまでの刑事法令体系を一変させるものです。
この行為処罰原則に基づかない刑罰法令として著名なところではナチス刑法があげられます。ナチス刑法の特徴は、秩序に反抗する意思と人格を処罰対象とするところにあります。そして、ナチス刑法は「反抗する意思」の有無を調べるためにゲシュタポに代表される秘密警察による監視密告社会をもたらしました。
どうして「意思」を処罰対象とすると監視密告社会が到来することになるのでしょうか。
「共謀」が成立していることを明らかにする方法は二つ考えられます。
一つは「共謀」に加わったと目される人の自白によって「共謀」の成立を立証することです。そのため「共謀」に参加したと目された者に対して精神的苦痛を与えて「自白」を強要することが横行することになるでしょう。
もう一つは犯罪「行為」がなされる以前から、何らかの犯罪行為の「共謀」をしそうだと疑った者や団体に対して継続的にメールやLINE等の傍受、通話の盗聴を通じて「共謀」がなされたかを明らかにすることです。そのため盗聴(通信傍受)、監視カメラ、GPS等による人の動静を監視し、密告・スパイの送り込み等による団体内部の情報を取得すること等が捜査機関の活動の中心となるでしょう。これは、捜査機関による市民の日常生活の監視が継続的に行われることを意味しています。
このように「意思」を処罰対象とすると市民の日常生活の監視が不可欠とならざるを得ないのです。
共謀罪法は、内心の自由を保障する憲法19条、通信の秘密を保障する憲法21条、適正な刑事手続を保障する憲法31条等に違反しています。共謀罪法は施行されてしまいましたが、共謀罪法廃止に向けた取り組みを続けていかなければなりません。
自衛隊の海外派兵について
「積極的平和主義」のもと、自衛隊を海外に派遣して、国際社会の一員としての役割を果たすべき?
弁護士 田場暁生
安倍首相は、2013年9月の国連総会で、「日本として、積極的平和主義の立場から、PKOをはじめ、国連の集団安全保障措置に対し、より一層積極的な参加ができるよう図ってまいります。」と発言し、2015年9月には自衛隊の海外派兵に道を開くいわゆる安保法制を強行的に成立させました。これに基づき、政府はいわゆる「駆けつけ警護」(他国の軍隊などが攻撃にさらされた時、駆けつけて自衛のため以上の武器使用を認めるもの)などの新任務を付与して自衛隊を南スーダンに派遣しました。自衛隊の宿営地近辺で「戦闘」が起き、「流れ弾」に注意が必要だと記載されていた日報の存在が隠蔽されたことは記憶に新しいところです。
日本は国際社会の一員として役割を果たす必要があります。しかし、そのために自衛隊のような実力部隊を海外に派遣する必要があるのでしょうか。
私が運営に関与している団体・新外交イニシアティブ(ND)では、2年前に平和学の権威であるノルウェーのヨハン・ガルトゥング氏を米軍基地被害に苦しむ沖縄に招致しました。氏は45年ほど前に『積極的平和』概念を提唱した方で、世界中の大学で平和学を教え、これまでに世界100ヶ所以上の紛争調停をしてきました。氏は、戦争(直接的暴力)の無い状態が平和(消極的平和)と解されていた時代にあって、飢餓や抑圧、差別などの「構造的暴力」も平和研究の対象として設定し、それらの克服された社会的正義としての状態を『積極的平和』と位置付けています。憲法9条のもと、日本はこのような積極的平和の構築に非軍事部門で貢献をしてきました。ODAのあり方など問題点も少なくありませんが、インフラ整備、復興支援、教育支援、法整備支援など日本が行ってきた国際貢献は世界で高い評価を得ています。
軍事力を中心とした力の行使に頼るのではなく、ガルトゥング氏が指し示すような『積極的平和』の実現に向けた役割を日本は国際社会で果たしていくべきではないでしょうか。