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城北法律事務所 ニュース No.78(2018.8.1) | 城北法律事務所

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城北法律事務所 ニュース No.78(2018.8.1)

城北法律事務所 ニュース No.78(2018.8.1)2-3ページ

今こそ、憲法改正よりも東アジアの平和構築を

弁護士 田場 暁生

安倍政権は、自衛隊を「普通の軍隊」にするための、憲法第9条の改正を目論んでいます。審議不十分の中、多くの国民の反対を振り切り、「安全保障法制」が2015年9月に成立しましたが、それでも自衛隊が海外で武力行使するためにはまだ高いハードルがあります。この制約を取っ払って、自衛隊をより自由に世界に展開するために安倍首相は憲法改正を目指しています。

9条を改正する必要があるのでしょうか。安倍政権・自民党は「北朝鮮の脅威」を「抑止」するために9条改正が必要だとしています。「北朝鮮の脅威」とは、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発です。しかし、そもそも、日米軍事同盟を基礎にした世界最強の米軍の存在があっても、北朝鮮の核開発等は阻止できませんでした。9条を改正して日本の軍事力を強化しても核開発に対する「抑止」は効きません。

6月12日、トランプ大統領と金正恩委員長の、史上初の米朝トップ同士の会談がありました。これについては、北朝鮮の核開発をストップできる具体的なプロセスが示されていないことなどから、アメリカや日本のメディアを中心として批判的な論調が目立ちます。しかし、もともと、会談が設定されてから3か月で具体的な内容まで詰めることは困難でした。重要なことはこの間の東アジアの緊張緩和をめぐる全体的な流れをとらえることです。

米朝会談に先立つ4月27日、韓国と北朝鮮の国境にある板門店で、金正恩委員長と韓国の文在寅大統領が10年半ぶりにトップ同士の会談を行い、宣言を出しました。宣言では、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制構築という項目の中で、非核化が論じられています、しかも、非核化は、北朝鮮の非核化ではなく、朝鮮半島の非核化が宣言されています。北朝鮮が核を放棄するだけではなく、韓国も非核化をするという意味です。1992年までアメリカは韓国に核を配備していました。北朝鮮の核武装はこのような歴史を前提にしているので、韓国の非核化は北朝鮮にとっては大きな意味を持ちます。米朝会談も、朝鮮半島の平和という大項目の中で非核化をとらえています。このような大きな枠組みを今回米朝韓のトップが宣言したことの意味合いは少なくありません。

拉致問題はどうなるでしょうか。「憲法改正をしないと拉致問題は解決しない」などという主張もあります。しかし、軍事力を強化し、また、自衛隊を派遣したとしても拉致問題は解決できません。また、安倍政権は、「拉致問題が解決しない限り国交正常化しない」と呪文のように唱えるだけで、拉致問題致解決のための戦略を持っていないばかりか、無駄にハードルをあげてきました。残念ながら拉致から時間が経過しており、拉致被害者は加齢等による死亡の可能性も否定できません。にもかかわらず、全員帰還などを条件にするなどハードルを上げることによって、解決は逆に遠のいています。関係改善・国交正常化も含めた関係改善をはかることによって、拉致問題についての日朝共同の調査などの道も開けるのではないでしょうか。

朝鮮問題は、歴史的な文脈が重要です。なぜ、朝鮮半島が南北に分断されたのでしょうか。ソ連は1945年8月、当時日本の植民地であった朝鮮に侵攻しました。日ソ不可侵条約はあったものの、朝鮮が日本の植民地であったためソ連が朝鮮に侵攻しました。そして、このような状態をベースに、朝鮮戦争が勃発しました。日本の植民地支配→ソ連の朝鮮侵攻→朝鮮戦争→南北分断、という歴史の因果は否定できません。大戦後の処理として、日本が4分割されるという案もありましたが、運よく日本はそれを免れました。核開発問題があろうとなかろうと、拉致問題の解決をどう目指すのかという問題とは別に、日本には南北分断と朝鮮半島の平和構築について歴史的責任があります。

憲法改正よりも日本が東アジアの平和構築に果たすべき役割は山ほどあります。さすがに、南北会談、米朝会談を受けて、「対話のための対話をしない」「とにかく圧力」などと言い、あげくのはてには北朝鮮に対する国交断絶を各国に説いて回った安倍政権も誤ちに気づき、対応を変化しようとしています。そうであるならば、今こそ、憲法改正にかける情熱を、朝鮮半島を含めた東アジアの平和構築や拉致問題解決のために使うべきです。


国民投票法の問題点

弁護士 大久保 秀俊

1 憲法改正の手続きについて
憲法改正がまことしやかに叫ばれておりますが、読者のみなさまは憲法改正の手続をご存知でしょうか。国民投票といった言葉も聞いたことがあるかと思いますが、いったいどういった流れなのでしょうか。
まず憲法改正のためには、①憲法改正案が作成・提案の上、憲法審査会での審査が行われます。②次に衆議院と参議院で総議員の3分の2以上の賛成を持って国会の発議による提案がなされます。次に③国民投票が実施されます。国民投票においては有権者の投票過半数の賛成が必要となります。④その後、天皇が公布します。
手続の留意点はいろいろとありますが、簡単に説明するとこのような流れとなります。

2 国民投票法の問題点
国民投票法には多くの問題点があります。それは、そもそも国会内の多数を占める改憲派が改憲をしやすいように作った法律だからです。かいつまんで説明します。

(1) 最低投票率の定めがないこと
まず、国民投票法には最低投票率の定めがありません。つまり、有権者のうち、10%の国民しか投票しなかった場合であっても、過半数(全体の有権者で見れば5%超)の賛成によって憲法改正がなされてしまいます。このような国民投票によって改正案が承認されたからといって、果たして、国民の承認があったといえるのでしょうか。

(2) 広告規制がないこと
次に最大の問題として広告規制がないことが挙げられます。国民投票の14日前までのテレビ・ラジオ等における国民投票運動としての有料意見広告放送に何らの規制も加えられていないのです。結論から言えば、国民投票となれば、潤沢な資金を持つ改憲派によって、テレビ・ラジオのCMや広告は改憲メッセージであふれかえることになります。 
改憲派はいつ国民投票を実施するかのイニシアチブを握っています。CMを打つのであれば、高い反響が見込まれる民放キー局ゴールデンタイムのCM枠をあらかじめすべて押さえてしまうことも可能です。しかもこのような民放キー局のCMの単価は15秒程度で数百万円と言われています。その他の費用もあわせれば、最低60日間は実施される国民投票で動く選挙費用は莫大なものとなるはずです(なお2週間で実施される国政選挙の選挙費用は100億円程度と言われています。)。まさに金で票を買う事態となり、経団連の後ろ盾等がある改憲派に比べ、資金力に乏しい護憲派は到底太刀打ちできないでしょう。
このような事態を防ぐには、広告費に上限規制をするか、CM等の枠を均等に分ける仕組みが必要不可欠です。
ちなみに国民投票が盛んであると言われる欧州は当然にメディア規制をしており、テレビやラジオのスポットCMは全面的に禁止されている国がほとんどです。

上記以外にも、公務員・教育者への運動規制や発議後、投票までの期間が短い点など問題が山積しています。
なお、現在、国民投票法の改正案の検討がなされていますが、現時点では公職選挙法とのずれを解消する内容となっており、このような問題について真正面から答える改正案とはなっていません。

3 おわりに
国民投票法は改憲派によって作られた、まさに改憲のための手続といえます。国民の投票で改憲を止めればよいなどと考えてはいけません。国会発議の段階までにこれを止めなければなりません。
そうはいっても国会は3分の2以上を改憲派に押さえられているのだから、国会発議を止めることはできないのではないか、国民投票で止めるしかないのではないかというご意見もあろうかと思います。
そんなことはありません。憲法改正の賛否の世論調査によれば、憲法9条の改憲については、賛否が拮抗している状況です。本気で改憲を目指す勢力は、憲法改正のチャンスは一度きりで、失敗は許されないと考えています。彼らが世論を無視してまで国会内の手続を強行するかは必ずしも明らかではありません。彼らが気にするのは世論や内閣の支持率です。
今後も3000万人署名の取組みを進め、世論を作り、改憲を阻止すべく奮闘していきましょう!


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