城北法律事務所 ニュース No.79(2019.1.1)

法律相談

届いた訴状

弁護士 野口 景子

【質 問】 
以前カード会社でお金を借り、10年ほど前に完済しました。ところが、先日、カード会社が私を訴えたと裁判所から書類が届きました。借金は完済したのですから放っておいても問題ないでしょうか?

【回 答】
民事訴訟の被告として訴えられると、裁判所から訴状などが送られてきます。訴状に書かれている原告の主張に誤りがある場合や法的にあなたにも言い分がある場合にはそれらを書類にまとめて裁判所に提出する必要があります。ご質問の件では、「借金は完済した」とか「消滅時効が成立していて、今更返済する必要はない」といった言い分を書類にまとめて裁判所に伝える必要があります。

こうした対応をせず裁判所からの呼出しも無視してしまうと、裁判所は原告の主張を認める判決を出してしまいます。本当は支払う必要のないお金をカード会社に支払わなければならないという事態になってしまうのです。

訴状や支払督促が届いた場合には、書類1枚を裁判所に提出するだけで済むか、長期間訴訟対応が必要になりそうか、弁護士に相談して見通しを確認することをお勧めします。

最近では、既に消滅時効が成立している場合でも、カード会社等が以前お金を借りた市民に対し、訴訟を起こしたり、支払督促を申し立てることも少なくありませんので注意してください。

知らない間に裁判が行われてしまうことも

なお、稀なことではありますが、裁判所の判決に基づいて財産を差し押さえるという通知が届き、初めて自分が裁判の被告にされていたということを知る場合もあります。本来あってはならないことですが、様々な事情から本人が知らないうちに裁判の被告とされ、敗訴判決を受けてしまうこともあるのです。

この場合、最短で1週間以内にもともと裁判が行われていた裁判所に対し、手続きや判決の見直しを求める必要があります。急いで弁護士に相談をしていただきたいと思います。


労働事件

弁護士 木下 浩一

1【事例1】
ラジオのニュースキャスターが、2週間の間に寝坊により2度の放送事故(※放送ができなかったこと)を起こし、しかも、2度目の放送事故については、当初上司に報告せず、上司に促されて提出した報告書には一部虚偽があった。会社としては、懲戒解雇が相当と考えたが、再就職など従業員の将来を慮って普通解雇にとどめた。さて、この解雇は有効でしょうか?

この事例は、解雇が無効とされた有名な判例を簡略化したものです。解雇が無効とされた理由となる多くの事実を省略していることもありますが、このケースなら解雇有効と思われた方も多いのではないでしょうか。

2【事例2】 
度重なる指導、段階的な処分を経て、痴漢を繰り返していた従業員を鉄道会社が懲戒解雇した。退職金規定には、懲戒解雇の場合、退職金を支払わないとの定めがあったので、退職金を全く支払わなかった。さて、労働者としては、会社に退職金を請求できるでしょうか?

この事例も有名な判例を簡略化したものです。裁判では、懲戒解雇は有効となりましたが、退職金については、規定の3割を支払えとの判断が下されました。退職金を支払わないとの定めがあるし、軽微でない犯罪行為もあるのだから、退職金全額不支給もやむを得ないのではと思われた方もおられるのではないかと思います。

3 当事務所では、労働者の方々のみならず、使用者側からの労働相談も数多く頂いております。

労働者の立場からすれば、可能な権利行使を諦めてしまったり、使用者の立場からすれば、無効な解雇をこの程度なら有効だろうと安易に考えてしまうケースもありがちです。重大な決断の前には、専門家にご相談されることをお薦めいたします。


刑事事件

弁護士 田村 優介

【質 問】 
突然警察が自宅にやってきて、大学生の息子が逮捕されてしまいました。繁華街で知り合った人に振り込め詐欺に誘われ、犯行に加わってしまったようです。息子はこのまま刑務所に行ってしまうのでしょうか。

【回 答】
あまりに突然のことで、パニック状態になることと思います。逮捕されてから72時間は、ご家族はご本人と面会することができません。弁護士であればこの期間にも本人と会うことができますので、すぐに知っている法律事務所に連絡するか、弁護士会の当番弁護センターに連絡をしてください。逮捕から72時間以内に、検察官が裁判所に対し勾留請求を行い、裁判所が勾留を認めると、さらに10日間身柄が拘束されてしまいます(さらに10日の延長もあり、最大で逮捕から23日の計算になります。)。 

以前はほとんどの事件でこの「勾留」が認められてしまい、「人質司法」と批判されていたのですが、近年は勾留却下率が上がってきており、ご家族が身元を引き受け監督を誓約するなどの対処をとることにより、数日で釈放されることもあり得ますので、すぐに弁護士にご相談することをおすすめします。

振り込め詐欺のように被害者の方がある事件では、生じてしまった被害を賠償し、恐怖を与えてしまったことを謝罪する趣旨で、示談金を用意し、示談の成立を目指すことが考えられます。示談が成立することにより、今回だけは刑事裁判は猶予する、という「起訴猶予」の処分となる可能性が上がります。

あるいは、息子さんは本当は詐欺などしておらず、冤罪かもしれません。その場合にも、弁護士との接見によるご本人の言い分の確認やアドバイスが極めて重要になってきます。いずれにせよ刑事事件はスピードが勝負です。すぐに弁護士に連絡、ということを覚えておいてください。


相続放棄

弁護士 久保木 太一

【質 問】 
先日、父が亡くなりました。生前の父は不動産を所有していましたが、消費者金融から手紙が届いており、借金もしていたようです。どうすればよいでしょうか?『相続放棄』というものがあると聞いたのですが。

【回 答】
1 相続放棄とは?

相続放棄とは、文字通り、相続する権利を放棄することです。亡くなった方を被相続人、財産を相続する方を相続人と呼びますが、相続放棄は、原則として、被相続人が亡くなった後3ヶ月以内に相続人が行う必要があります。

2 どのようなときに相続放棄をするの?

相続する権利を放棄するなんてもったいない、と思われるかもしれませんが、相続する財産はプラスの財産(不動産、預金など)だけとは限りません。被相続人にマイナスの財産(被相続人の借金など)があった場合、それも一緒に相続することになります。相続放棄をしなかったがために、多額の借金を背負い、自己破産に追いやられるということもあります。

プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い、または多いかもしれないという場合には、相続放棄を検討するべきでしょう。

3 ご相談への回答

ご相談のケースのように、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない場合は少なくありません。また、消費者金融からの借金の場合、すでに時効で消滅していて、時効の援用によって借金がなくなることもあります。 

結論から言えば、プラスの財産とマイナスの財産とを比べて、プラスの方が多ければそのまま相続をし、マイナスの方が多ければ相続放棄という判断になるかと思います。とはいえ、相続放棄には3ヶ月というリミットがあります。

そこで、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てることによって、期間を3ヶ月から伸ばした上で、時間をかけて被相続人の財産を調査するべきです。この期間の伸長の申立ては原則として被相続人が亡くなった後3ヶ月以内にする必要があります。うかうかしてはいられません。

弁護士に依頼していただければ、依頼者様が相続で損をしないよう、期間の伸長、財産調査、時効援用、相続放棄等の一連の手続を代行いたします。