城北法律事務所 ニュース No.53(2006.1.1)
目次
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- 1 三菱樹脂の高野達男さんのこと「採用の自由」という不当労働行為を免罪する裁判を闘って
- 2 薬害イレッサとサイエンスサイエンスに基づく医療を
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- 1 -中国残留孤児国家賠償請求訴訟-いよいよ最終盤!さらなるご支援を!!
- 2 中国北京旅行記隣国の中国と仲良くしないでどうするのか
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- 1 男女共同参画社会の実現真の男女平等社会を実現するために
- 2 ―板橋高校卒業式事件―えっ、これが「犯罪」ですか?
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- 1 意欲と元気を動かすものLOVE9を乗せる私の花を探して
- 2 長時間過密労働の是正実現へ健康被害は深刻な状況となっている
- 3 事務所創立40周年を迎えて
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- 1 和やかにはずんだ懇談創立40周年記念 地域懇談会を開催
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- 1 【平和を考える】改憲論の危険性〜「立憲主義」を崩す自民党の憲法案は許されない 居酒屋で使える「北朝鮮の恐怖」への反論〜
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- 1 身近なところから憲法9条を語ろう憲法9条はみんなの宝物
- 2 働くルール"破壊"計画労働契約に反する逆コースを許さない闘いを
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- 1 薬害肝炎訴訟原告本人尋問を経て裁判官も原告の証言を真剣な表情で聞き入る
- 2 ある労働事件について「自分の権利は自分で守る」ことの重要さ
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- 1 おかげさまで創立40周年諸問題が山積みで今年も忙しくなりそうです
- 2 急性腰痛症は公務災害働く者の命と健康を守るためにこれからも尽力します
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- 1 若者の雇用を守れ不当な扱いを受けたら泣き寝入りしないで相談を
- 2 弁護士登録から1年「ありがとう」「助かりました」の声に励まされて
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- 1 「さらば戦争!映画祭」に取り組んで我々の世代らしいものを
- 2 新しい事務局員を紹介します
三菱樹脂の高野達男さんのこと
「採用の自由」という不当労働行為を免罪する裁判を闘って
弁護士 菊池 紘
突然の高野達男さんの訃報に驚いた。
東北大3年の1963年秋、集まるようにいわれ生協の食堂に行くと、東京からきた高野さんがいた。「生協での活動を履歴書に書かなかったことで、三菱樹脂を解雇された。裁判で争うので、柳瀬良幹教授に協力を求めるために来た」という。高野さんは「たとえひとりの力は小さくても、民主主義をまもり、人間の尊厳をまもりぬきたい」として、うってでたのだった。そこには、曲がったことは許せないという、東北育ちの不器用な生き方が表れていると思った。後に知ったことだが、大学に入学した私は政治的暴力防止法反対のデモに加わったが、この東一番丁のデモには2年先輩の高野さんも一緒に歩いていたのだった。
高野さんは地裁、高裁で勝訴した。勝訴は当然のことと思ったが、最高裁が弁論を開いたことは、逆転の可能性を示すものだった。大法廷回付をうけ71年1月5日の「朝日」が社会面トップ7段抜きの大見出しで三菱樹脂事件を報じたことは、この裁判を全国の注視の的とした。総評と総評弁護団は最高裁7大事件として、全逓猿払事件ほかとともに三菱樹脂事件を掲げた。
しかし最高裁は「企業には雇い入れの自由があり、思想信条を理由として雇いいれを拒んでも違法ではない」として、三菱独占を免罪した。この判断は「石流れ、木の葉沈む」ものと批判された。
人びとは納得せず、判決当日に三菱樹脂に抗議した。「安保反対のデモに参加したことを理由とする解雇は許せない」との怒りは、いっそう燃えさかった。判決から1か月で高野さんを励ます500通の手紙が寄せられた。おりから三菱独占が元警察官僚さか健をかかえて参議院選挙に打って出たことを批判する企業ぐるみ選挙反対のたたかいとむすんで、高野支援・三菱糾弾の世論はおおきく広がった。この企業ぐるみ選挙反対の運動には、私たち弁護士も役割をはたした。
そしてついに76年3月、東京高裁の和解をへて、高野さんは三菱樹脂に課長代理として復職した。 白髪の高野さんとは、子供らの保育園と学童を同じくした。高野さんは三菱に勝利したが、いま国鉄闘争では、三菱樹脂最高裁判決の「採用の自由」が不当労働行為を免罪する論拠とされている。また最高裁7大事件のひとつの全逓猿払事件判決を覆すことが、国家公務員法違反の堀越事件と宇治橋事件の課題となっている。高野さんもこれを求めていると思う。
薬害イレッサとサイエンス
サイエンスに基づく医療を
弁護士 阿部 哲二
新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
一昨年11月から東京地方裁判所で始まった薬害イレッサ東日本訴訟は、今年中には証拠調べに入ります。イレッサとは、2002年7月に世界に先駆けて肺がん用の抗がん剤として承認されたものです。承認前から「副作用のない夢のようなクスリ」と宣伝され、わらをもすがる思いのがん患者が服用しました。ところが、3年弱の間に600人以上の人達が、この「クスリ」の副作用で死亡しているのです。イレッサを輸入販売しているアストラゼネカ社と、これを承認した国の責任を追及しています。
京都大学医学部の福島雅典教授は、このイレッサの問題では日本のサイエンスが問われているのだといいます。サイエンスが苦手で文系に進み、弁護士になった私ですが、こういうことなのです。
イレッサは、承認される前の臨床試験の段階で、今問題となっている副作用の間質性肺炎を示す症例が既にありました。海外では196の副作用症例が報告され、そこにも多くの間質性肺炎が認められました。ところが、厚生労働省は、このような情報を承認にあたってクスリの添付文書に記載させず、充分な検討も行なわず、「症例の集積をまって検討」などとしたのです。その結果、市販後に600以上の死亡症例が積みあがってしまいました。
イレッサ承認後、海外で行なわれた4つの大規模な臨床試験では、イレッサに延命効果が認められませんでした。これを受けて、米国では新規患者への投与が禁止され、EUではイレッサの承認申請そのものが取り下げられました。
ところが、日本では、すごく効いた例があるとか、東洋人には効きそうだとの声におされ、そのままです。飲んだ、治った、という個別症例をいくつ持ち出しても、それで、効いたという証明にはなりません。それだけなら、アガリスクや奇跡の水と同じです。
クスリの効果を本当に証明するには、偽薬とのきちんとした比較試験が必要です。効いたとされる症例があったとしても、それを打ち消す副作用死亡例があり、全体として延命効果が認められない、それがイレッサの現状です。この科学的データに基づいて承認のあり方、販売のあり方を見直すべきです。
サイエンスに基づかない医療は、結局のところ、企業の利潤追求を野放しにし、サイエンスが分からない私達に最も被害を与えるのです。勉強を怠らず頑張ります。