城北法律事務所 ニュース No.57(2008.1.1)

時の足音 ~生存権裁判東京訴訟~

弁護士 田見高秀

昨年2月14日、朝日訴訟原告朝日茂さんの命日に、70歳以上の生活保護受給者に特別加算として支給されていた老齢加算の廃止は生存権を侵害すると訴える訴訟を、東京都下12名の原告が勇気をもって東京地裁に起こしました。同種の訴訟は、既に全国で審理されています。共通する争点は、第1に、生活保護法56条が「生活保護受給者は、正当な理由がなければ、既に受けている保護を奪われることがない」と規定しているのに、昭和35年から40数年間、正当な制度として存続してきた老齢加算制度を廃止して良いかという点です。

第2に、国は、老齢加算を削減・廃止して、給付金を減らしても、健康で文化的な最低限度の生活を下回らないと主張している高齢者の生活実態が非常に低い水準に置かれ、生存権の保障という点からみて、座視できない状況を裁判所に直視する判断をさせ得るかという点です。勝訴判決を必ず! の気概で、原告・弁護団は取り組んでいます。

この報告の標題は、坂西志保女史の著書「時の足音」(1970年、雷鳥社)から取りました。坂西さんは、戦前1934年、石川啄木の歌集「一握の砂」を英訳し、アメリカで出版しました。坂西さんの遺稿の中から、有名な「はたらけど はたらけど猶わがくらし楽にならざり ぢっと手をみる」英訳が発見されました。「I work I work as best I can, Yet for all that My living Is none the better… Blankly I gaze my hands」がその英訳とのことで、最後の「ぢっと手をみる」ところの「Blankly」は「ぼうぜんと」の意味だそうです。

働く人々が、自分の労働で生活の糧を得ることが余儀なくできないとき、社会がその最低限度の生活を保障する、そうした理想の上に憲法25条とそれに基づく生活保護制度は成り立っています。この裁判を通じて問われるのは、この生存権の国による侵害に対して、抗議の声をあげた人々の訴えを社会全体の福祉の前進を促す「時の足音」として認めさせるか否か、そのことであると確信しています。

ご支援・ご協力をお願い致します。


アスベスト訴訟、いよいよ提訴
-100名以上の原告が着々と訴訟準備中-

弁護士 松田耕平

これまで関わってきた中国残留孤児訴訟は支援法案が成立してとりあえず一段落♪…と思ったのもつかの間、今度は建設作業に従事していた方が国と建材メーカー等を被告として提訴する訴訟(「建設アスベスト訴訟(仮称)」)に関わることになりました。

ご存じの方もいると思いますが、アスベストについて簡単に説明します。アスベスト(昔は「石綿(せきめん・いしわた)」とも呼ばれていました)はコストが安く、しかも耐火性、耐衝撃性に優れた鉱物として、戦前から広く使用されていました。原材料の多くは海外から輸入されていましたが、その90%近くが建築材料(=建材)に加工され、使用されていました。このアスベスト建材を加工するために切断したり、建材に吹き付けたり、或いは解体する際、粉じんとなって作業従事者の体内に吸引されます。これが長年の仕事で体内に蓄積されると、石綿肺、肺ガン、悪性中皮腫などの重い病気にかかってしまいます。このようにアスベストは危険性が高いため、現在、世界の多くの国をはじめ、日本でも原則として使用は禁止されています。

このようにアスベストは危険な鉱物だったのですが、その危険性(ガン原性)がILO(国際労働機関)などで指摘された1972(昭和47)年以降も、国が全面使用禁止措置をとった2006(平成18)年まで長きにわたって放置され、建設作業員はアスベストを吸入し続けてきたのです。アスベスト関連疾患の体内潜伏期間は20~40年と言われており、今後、アスベスト関連疾患の患者が激増すると言われています。命にかかわる危険な鉱物を長年放置してきた国、そしてアスベスト建材を製造し続けてきたメーカーの責任は重大です。現在、100名以上の建設作業従事者とその遺族の方々が原告予定者として訴訟提起準備中です。これからはじまる闘いですが、皆様のご理解とご支援をお願いします。


緊急命令5本を受けて
郵便局にあいついで組合事務室!

弁護士 菊池紘

昨秋から冬にかけて、石神井、板橋、小石川、豊島、武蔵野など8つの郵便局に、つぎつぎと郵政産業労働組合(郵産労)の組合事務室が設けられました。


全国の郵便局には連合の郵政労組(旧全逓)、全郵政、全労連の郵産労などの組合がありますが、郵政は他の2労組には組合事務室を与えながら、郵産労にはこれを与えない不法な差別を続けてきました。集配労働者の強制異動や郵便労働者の深夜勤務改悪に反対する郵産労の活動を嫌悪してのことです。

組合運動は何よりも、労働者が働き、休息する職場でのつながりを基礎にします。職場の組合事務室で労働者と気軽に話し合うことは、組合活動に欠くことはできません。

そこで郵産労は組合事務室を与えるよう不当労働行為救済を求めてきました。中央労働委員会はこれを認め、つぎつぎに組合事務室の貸与を命じる救済命令7本を出しました。公務員の労働関係での不当労働行為救済は実に30年ぶりのことでした。郵政はこれを争い、命令の取消しを求めましたが、裁判所も命令を維持する判決をくり返し、さらに8月から9月にかけて組合事務室の貸与を強制する緊急命令6本を連発。とうとう秋からあいついで組合事務室が設けられました。


11月22日の組合事務室貸与・完全勝利を祝う集会は百数十名の組合員の笑顔で一杯でした。各支部長の皆さんから「提訴した時にはこんなすばらしい結果は考えられなかった」「民間へ移った郵政で組合員をふやし、働く者の権利をひろげたい」との挨拶がされました。

職場でがんばる人々の事件に関って努力を重ねる弁護士にとって、一番うれしいのは、こうした時です。

(事務所からは、板橋局と豊島局の事件を上野弁護士、武蔵野局の事件を大川原弁護士が担当し、奮闘しました)