城北法律事務所 ニュース No.62(2010.8.1)

裁判員裁判

公正な裁判を実現するために
これまでの問題点とこれから

1 裁判員裁判がスタート
平成16(2004)年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、平成21(2009)年5月21日から裁判員制度が始まりました。同年8月3日に東京地方裁判所で最初の公判が行われ、以後、各地方裁判所で行われています。

2 裁判員裁判とは
裁判員制度とは、国民のみなさんが、裁判員として刑事裁判に参加し、裁判官と一緒に被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑にするかを決める制度です。国民が裁判に参加する類似の制度は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア等でも行われています。

裁判員裁判の対象事件は、一定の重大な犯罪であり、たとえば殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪などがあります。

3 裁判員裁判の特徴
これまでの裁判は、検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家によって行われてきました。高い専門性・緻密さが評価されていた反面、審理や判決が国民にとって理解しにくいものであったり、一部の事件とはいえ、審理に長期間を要する事件があったりしたために、刑事裁判は近寄りがたいという印象を与えてきた面がありました。

そこで、この度の司法制度改革の中で、国民の司法参加の制度の導入が検討され、国民から選ばれた裁判員が、それぞれの知識経験を生かしつつ、裁判官と一緒に審理に参加し、判断を下すことにより、より国民の理解しやすい裁判を実現することができるとの考えのもとに裁判員制度が提案されたのです。

4 裁判員の選ばれ方
まず、選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年くじで選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作ります。この名簿に載った方には、その旨の通知が来ます。また、この通知とともに、調査票も送付されます。調査票では、就職禁止事由(裁判官や検察官、弁護士など裁判員の職務に就くことができない人など)や1年を通じた辞退事由の有無、特に参加が困難な時期について記載することが求められます。各裁判所は、内容を調査した上で、明らかに辞退が認められるような場合には裁判員候補者名簿からはずされ、その年に裁判員をすることはなくなります。

具体的に裁判員制度の対象となる事件の公判実施時期が決まると、その事件ごとに、裁判員候補者名簿の中から更にくじでその事件の裁判員候補者を選び、裁判所での裁判の日程等をお知らせする通知書が各裁判所から届きます。また、質問票が同封されており、審理に参加することについての支障の有無などを確認します。

そして、通常は裁判当日の午前中に裁判所に行き、裁判員候補者の中から裁判員を選ぶための手続を行います。裁判長から、事件との利害関係がないか、辞退を希望する場合にはその理由などについて質問されます。その上で、最終的には、クジにより裁判員が決められます。

5 裁判員裁判の問題点
裁判員裁判に対しては、導入前から数多くの問題点が指摘されていました。

まず、裁判員の都合に配慮して法廷での審理が短縮される結果、拙速な審理による誤った判断がなされる危険や、非公開の公判前整理手続きにおいて争点と証拠の絞り込みがなされるため、被告人の防御が尽くせないのではないかなど、被告人の権利保護が不充分となる危険性が指摘されています。

また、実際の公判が開かれる前に、争点整理のための公判前整理手続きが行われ、その終了後裁判員の選任その他の準備のため、起訴から第一回公判期日までに大きな間が空くために、被告人の身柄拘束(勾留)の期間が長期化しています。法廷において被害者や遺族の意見陳述が行われることなどから、一般には従前の裁判制度よりも量刑が重くなる傾向があると指摘されています。

他方、被害者や遺族にとっても、同一都道府県内から裁判員が選任されるために、知人が裁判員に選ばれる可能性があり、プライバシー保護の点からも懸念があります。特に、性犯罪については深刻です。

さらに、裁判員は、平日の日中に数日間、裁判所に出頭することになるため、経済的・心理的負担が大きいとされています。さらに、重大な犯罪が対象になることから、生々しい証拠を目にすることや人を裁くプレッシャー、一生涯、守秘義務の負担を負うことなど、裁判員が負うことになる重い精神的負担にどう対応していくかがが課題です。

6 今後に向けて
城北法律事務所における第1号事件は2010年秋に公判を迎えます。裁判員裁判は施行後3年で制度の見直しを行うこととされています。制度の改善を行い、よりよい司法の実現を図ることが期待されています。