城北法律事務所 ニュース No.63(2011.1.1)

裁判員裁判

弁護士 工藤裕之

刑事裁判において、裁判員裁判が2009年から実施されていることは、みなさんもご承知のとおりです。裁判員裁判の対象事件は、殺人や傷害致死などの一定の重大な事件のみです。

私は、起訴事実を被告人が認めている事件の重要性を否定するつもりはまったくありませんが、それにしても、法律の素人の裁判員のみなさんの知識、経験が最も問われるのは、被告人が起訴事実を否認している、否認事件だと思っています。

被告人が起訴された犯罪を行っているかどうかという、事実認定の問題は、本来、人間の常識的な判断に基づいて行われるものだからです。それにもかかわらず、職業裁判官による裁判においては、事実や証拠の評価(証人の証言が信用できるかなど)を常識に照らして行わず、その結果、本来無罪とされるべき被告人が有罪とされる冤罪が多く発生してきたのも事実です。

ですから、現行の制度において、重大事件のみでいいのか、評議の秘密を刑罰の制裁をもって強制していいのかなどの問題があるにしても、もしみなさんが裁判員を務めることになった事件が否認事件の場合には、ぜひ、みなさんの常識に照らして、事実認定を行っていただきたいと強く思っています。


「抗がん剤の副作用死被害救済制度」創設に向けて

弁護士 加藤 幸

医薬品を適正に使用したにもかかわらず副作用被害が発生した場合、医薬品副作用被害救済制度により、治療費や障害年金、遺族年金などの給付を受けることができます。

医薬品は病気の治療には不可欠なものですが、人体にとって本来的には異物であり、医薬品の使用において副作用を完全に防ぐことは困難です。そこで、副作用被害が発生した場合に、医薬品の製造販売によって利益を上げている医薬品の製造販売業者の負担で被害者救済を行うというのがこの制度の趣旨です。

しかし、現在、この制度では、抗がん剤など一部の医薬品を使用した場合の副作用については、救済対象から除外されています。抗がん剤などは重い副作用が不可避な一方、がん治療にあたってはその使用が避けられず、副作用被害を被害者に受忍させることがやむを得ないというのがその理由とされています。しかし、副作用による死亡被害まで被害者に受忍させる理由はありません。このことから、私が所属する薬害イレッサ弁護団、薬害対策弁護士連絡会では、抗がん剤の副作用死亡被害に対する補償を行い、医薬品により被害を受けた方々の補償をより充実させるため、「抗がん剤の副作用死」被害救済制度の創設に向け頑張っていきたいと思います。


「うそをつかない医療」
病院も患者も苦しまないために

弁護士 武田 志穂

先日、私が所属している医療問題弁護団で、新葛飾病院の院長の清水先生と、新葛飾病院の医療安全対策室に勤務する豊田郁子さんの話を伺う講演会を企画しました。清水先生はお父様を、豊田さんはお子さんを医療事故で亡くされています。

新葛飾病院は、清水院長の下「うそをつかない医療」を目指し、インフォームドコンセントや患者相談室での丁寧な対応を徹底しており、院長就任後患者さんとの法的紛争は発生したことがないそうです。清水院長は患者さんに刃物を突きつけられた経験もあるそうですが、それでも「モンスターペイシェントなんていない。いるとしたら、それは病院が作り出している」と笑顔でお話されていたのが印象的でした。

また、豊田さんのような医療事故被害者の方のお話を伺うと、医療事故そのものについてだけではなく、事故が起きた際の病院の対応(真実を話してくれない。他人事のような対応など)に傷つけられ二次被害を被ってしまうことも多いようです。

新葛飾病院のように、うそをつかないで患者さんに正面から向き合える医療機関が増えてくれることを望みます。