城北法律事務所 ニュース No.64(2011.8.1)


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薬害イレッサ訴訟 −企業と国に勝訴

弁護士 阿部哲二

3月23日東京地方裁判所の大法廷で、薬害イレッサ東日本訴訟の判決が言い渡されました。裁判長は「主文」と宣言したあと「被告らは原告に対し…」と判決を言い渡しました。「被告らは原告に対し」ここまで聞けば、これは被告に金銭の支払いを求める常套句ですから、「勝った」と確認できます。そこに「被告ら」と「ら」が加わると、企業単独でなく国も責任をもって支払え、となります。

「ら」と聞いた瞬間、弁護団は全員、拳を握りしめて小さくガッツポーズという感じでした。

イレッサは、2002年7月に世界で最初に日本で承認された肺がん用抗がん剤です。夢のような新薬と宣伝され多くのがん患者の方々が飛びつきました。結果は悪夢でした。これまでに800人以上が副作用で亡くなったのです。特に販売開始後最初の半年で180人、2年半で557人と被害が集中、イレッサを100人に服用させると4人が亡くなり延命効果が確認できないという状態だったのです。

2004年から東京と大阪の両地方裁判所で、国とイレッサを販売しているアストラゼネカ社を被告とする裁判を進めてきました。

副作用の多い抗がん剤といえども、これほどの被害を出したのはイレッサだけです。アメリカでは2005年から新規患者への投与が禁止されています。アストラゼネカ社のあるEUでは2009年まで承認が見送られ、一昨年7月に承認されましたが、その承認は特定の遺伝子に変異のある患者に限定する厳しいものとなっています。これほどの死者を出したのは日本だけとなっているのです。

大阪地裁の西日本訴訟は本年2月25日、東京地裁は3月23日判決を言い渡しました。両地裁とも、イレッサの第1版添付文書における副作用についての情報提供が不十分だったと企業アストラゼネカ社の責任を認め、さらに東京地裁は冒頭に書いたように国の法的責任まで認めたのです。この両判決に対し被告らは控訴し、事件は高等裁判所に移りました。しかし、私達は高裁の判決を待たずして、次の通りの要求を掲げ話し合いによる全面解決を求めています。

①国とアストラゼネカ社は、薬害イレッサ事件に対する責任を認め、被害者・遺族に謝罪と償いをすること
②国は、イレッサの再審査にあたり、イレッサの適応を限定すること
③「がん対策基本法」に「がん患者の権利」を明記し、これに基づくがん医療体制を整備するにあたり、薬害イレッサ事件の教訓を生かすこと
④国は、抗がん剤による副作用死被害救済制度を創設すること
⑤国とアストラゼネカ社は、薬害イレッサ事件を検証し、薬害の再発防止に取り組むこと。

がん患者の生命の重さを問う訴訟、がん患者の知る権利の確立を求める訴訟です。

当事務所からは、津田二郎、白鳥玲子、加藤幸弁護士が参加しています。


ライブドア事件と IHI粉飾決算事件

弁護士 大川原 栄

ライブドアの元社長である堀江氏は、懲役2年6か月の実刑が確定したことにより本年6月にモヒカンカットのまま収監され、現在長野刑務所に服役中である。

ライブドア事件は、業績を粉飾するという手法で株価を吊り上げ、高値で株式を売り抜いたという悪質な犯罪事件であった。被害者20万人といわれるなか、約3300名が5年前に損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、今年7月20日に東京高裁で結審し、この秋にも判決が言い渡されることになっている。

IHI粉飾決算事件は、ライブドア事件の2年後に発覚した事件であり、株式会社IHI(旧石川島播磨重工)がライブドアとは手法が異なるものの、決算において粉飾を行い、その粉飾決算をベースに600億円を超える公募増資を行ったことにおいて、ライブドアに優るとも劣らない悪質な事件である。そして、公募増資に応じたり、市場において不正に歪められた株価で同社株式を取得したことにより多額の損失を被った一般投資家が続出した。

金融庁は、このような実態を踏まえ、IHIに対し金融商品取引法に基づく課徴金納付命令を下し、IHIはその命令に従い16億円の課徴金を納付した。その経緯の中でIHI弁護団がライブドア弁護団の有志を主力メンバーとして結成され、被害原告約190名を結集して提訴に至った。

しかし、IHIは、裁判において個人投資家の損害賠償請求には一転して応じないという対応をしたことから、東京地裁における激烈な裁判闘争が開始した。

このIHI裁判も、今年の9月で提訴後3年になる。この間、IHI弁護団は、被害の早期回復を目指して、入手可能な資料に基づき主張・立証を行い、同時に、裁判所に対して課徴金手続を行った証券取引等監視委員会(SESC)への文書提出命令申立を行い、裁判所は弁護団の申立の相当部分を認める旨決定を下すなどの成果を得ている。

しかし、このIHI訴訟は、SESCを巻き込んだ前例のない裁判ということから裁判所も慎重な審理を行い、想定以上の時間を要する裁判になっている。

ライブドア事件においては、地裁判決後の和解手続で3割ないし6割で原告の被害が回復され、同時に、ライブドア事件の首謀者であった堀江被告を実刑に追い込むという成果を得ている。市場経済は、一定の「自己責任」を基本にするとしても、粉飾決算という手法による証券市場の操作は法的に許されないものである。IHI事件においても、ライブドア事件と同様にIHIの責任、最終的に関与した会社役員の責任が認められなくてはならない。

弁護団としても、弁護団代表を務める私個人としても、1年後にはIHIの民事責任を明確にする判決を獲得したいと強く考えている。