城北法律事務所 ニュース No.64(2011.8.1)
目次
- Page 2
- 1 薬害イレッサ訴訟 −企業と国に勝訴
- 2 ライブドア事件と IHI粉飾決算事件
- Page 3
- 1 B型肝炎訴訟全面解決へ
- 2 国との基本合意成立、菅首相が被害者へ謝罪
- Page 4
- 1 東日本大震災
- 2 震災からの復興をめぐる二つの道
- 3 建設的な原発の議論を
- Page 5
- 1 震災法律相談大震災と事業再建
- 2 くらしと生活保護震災と生活保護
- 3 震災と子どもの問題子どもを 被ばくから救おう
- Page 6
- 1 民意を反映しない比例定数削減にNO!を
- 2 大阪府 君が代起立条例と定数削減条例〜成立経過にみる定数削減のねらい
- Page 7
- 1 大入り 大好評企画 セミナーレポート
- Page 8
- 1 精いっぱいがんばります
- 2 池袋派遣村継続しています!
B型肝炎訴訟全面解決へ
B型肝炎訴訟は、国民の誰もが受ける乳幼児期の集団予防接種の際、注射器が使いまわされたことでB型肝炎ウイルスに感染させられた被害者たちが、戦後40年間も使い回しを容認してきた国の責任を追及する裁判です。6月28日、原告団・弁護団と国との間で基本合意が成立し、菅首相が国の責任者としてはじめて被害者たちに直接面談して謝罪しました。
今後は、基本合意に沿ってすでに提訴している原告の個別和解の手続がすすむとともに、まだ全国にいる膨大な被害者の調査・あらたな提訴によって全ての被害を救済する仕事が残されています。また、時間の経過で証拠が残っておらず、裁判での救済が困難な人も含めて、広くB型肝炎ウイルス感染者・患者を対象とする恒久対策を前進させることと、さらにこの問題がなぜ起きたのかの真相究明が求められています。
国との基本合意成立、菅首相が被害者へ謝罪
弁護士 小沢年樹
【たたかいは24年前にはじまった】
今回の基本合意に至ったB型肝炎訴訟は、3年前に全国でいっせいに起こされました。しかし、このたたかいは、1989年に北海道からはじまったのです。当時、5名のB型肝炎ウイルス感染者・慢性肝炎患者が、自分の感染は国による予防接種の注射器使い回しの放置が原因だとして、国家賠償訴訟を起こしました。そして、1審敗訴、2審逆転勝訴を経て、2006年の最高裁判決で国の責任が確定しました。
B型肝炎ウイルスは、成人後の感染では慢性化せずに治ってしまうのに対し、乳幼児期に感染するとウイルスが生涯残ってしまうキャリアとなり、さらに慢性肝炎・肝硬変・肝がんを発症する人もいます。この乳幼児期の感染は、キャリアの母親から出生時に感染する「母子感染」がほとんどであるとされてきましたが、母親がキャリアでないのに、B型肝炎ウイルスのキャリア・慢性肝炎等の患者である人が日本には多数いることがわかっていました。
他方、戦後の日本政府は1948年の予防接種法制定以来、全国民に乳幼児期の予防接種を義務付けるとともに、戦前から危険性が指摘されていた注射器の使い回しを放置してきました。そのため、一緒に予防接種を受けたこどもの中に一人でもキャリアがいれば、多くのこどもたちに次々とウイルス感染が広がってしまったのです。
最高裁は、こうした注射器使い回し容認の国の責任を認め、母親がキャリアでなく、ほかに感染原因もない原告は、予防接種時の注射器使い回しによる感染であると認定したのです。
【あらたな裁判の提起と基本合意】
最高裁判決が報じられると、母親がキャリアでなく、予防接種が感染原因だと考えていた多くの患者たちは、「国の責任が認められた。これで自分たちも救われる」と期待しました。ところが国は、「最高裁判決は北海道の5人の原告だけの問題だ」として、全国にどれだけ被害者がいるかの調査も行わず、被害者救済の施策を何一つとらずに問題を放置してしまいました。
そのため、「多くの被害者を救済するには全国であらたな裁判を起こすしかない」として、2008年にいっせい提訴がなされました。現在までに700名以上の原告が裁判を起こしており、ほぼ1年に及ぶ和解協議を経て、ようやく今回の基本合意・首相の謝罪にまでこぎつけました。また、よりよい基本合意をかちとるため、原告らは病身を押して数多くの集会・署名・街頭宣伝・国会要請・座り込みなどに取り組み、差別と偏見の恐怖を乗り越えて実名でマスコミに登場するなど、言い尽くせない努力を重ねてきました。
【基本合意の内容と今後の課題】
基本合意は、予防接種の被害者であると認定するための条件と認定被害者への救済内容を定めています。救済内容は、死亡・肝がん・重度の肝硬変:3600万円、軽度の肝硬変:2500万円、慢性肝炎1200万円、無症候性(発症していない)キャリア:50万円+将来の検査費用・交通費などの助成です。また、いったん和解金を受領しても、将来的に重度の病態になった場合は差額の和解金を受け取ることができます。さらに、慢性肝炎について法律上は発症から20年たつと請求権が消滅してしまいますが(除斥期間)、基本合意ではこうした人にも抗ウイルス薬等の治療経験者は300万円、治療経験のない人は150万円の和解金が支払われることになりました。
さらに基本合意は、こうした悲劇が引き起こされた真相を究明する第三者機関の設置、予防接種被害者を含むより広いB型肝炎ウイルス感染者・患者への医療費助成・差別偏見の克服・治療体制の確立などの恒久対策の推進、原告らと国がこれらについて継続協議していくことも定めました。母親がすでに死亡しているなど、予防接種が感染原因であると証明できなくなってしまった人も多いため、原告らは自分たちの救済だけではなく、全ての患者を対象とする恒久対策を充実していくことの重要性をかみしめています。
【ウイルス検査を受けてください!】
1988年1月までに生まれた日本国民は、誰もが予防接種による感染の危険にさらされていました。通常の健康診断ではウイルス検査が含まれないことも多いので、ぜひ一度検査を受けてください。キャリアであることが分かれば、継続的に検査を受けて発症時のリスクを減らすことができますし、母親の検査によって予防接種の被害者であることが判明すれば、基本合意に沿った救済の道も開けます。裁判についてのお問い合わせは、城北法律事務所までよろしくお願いします。