城北法律事務所 ニュース No.67(2013.1.1)

目次

本格化するB型肝炎の被害救済
さらに幅広いウイルス性肝炎問題の解決を!

弁護士 小沢 年樹

【いよいよ本格化する被害救済】
乳幼児期の予防接種の際に、不充分な国の指導により注射器の使い回しをされたB型肝炎ウイルス感染被害者が立ち上がった裁判は、一昨年6月に政府と基本合意し、12月に特別措置法が制定されました。これを受けて、B型肝炎訴訟に加わった原告は昨年11月時点で約6800人、東京原告団だけでも約1400人にのぼります。当初、厚労省の裁判対応の人員不足から、裁判での和解解決に至った人がなかなか増えませんでしたが、昨年秋ころからは次第に解決のペースが上がってきています。

自分はB型肝炎のキャリアー・慢性肝炎・肝硬変・肝がんなのだが、母親はウイルスのキャリアーではなかったのに…と疑問に思われている方は、ぜひ弁護団(03-3355-0611)に一度ご相談ください。

【さらに幅広い救済のために】
私たち原告団・弁護団は、自らが予防接種の被害を立証して救済を受けるだけではなく、母親がすでに死亡し、兄姉もいないため被害を立証できない方々が多数いらっしゃることから、より広い救済の道筋が必要だと考え、現行の医療費助成の拡充要求を厚労大臣につきつけるなど、裁判以外の継続的な活動もすすめています。この点でも、みなさまのご理解・ご協力をお願いいたします。


薬害イレッサ訴訟の解決を通して
抗がん剤副作用被害救済制度の創設を!

弁護士 阿部 哲二

クスリを服用して重い副作用被害にあった場合、医薬品副作用被害救済制度があります。これは薬害スモン事件を通じて、1980年に作られた制度です。

この救済制度の対象外とされたのが、重篤な副作用が高頻度で発生し患者がそれを受忍して服用しているとされた抗がん剤でした。

薬害イレッサ訴訟を進める原告弁護団・支援は、広く抗がん剤の重篤な副作用で苦しむ患者に対し、薬害か否かを問わず、全体の負担で裁判によらずに迅速に救済する制度の創設を求めています。

自動車は鉄の塊が動くのですから事故を完全にゼロとすることはできません。でも、社会にとって有用なら使用を認めつつ、不可避な被害を自賠責保険に強制加入させ、全体の負担で救済する仕組みが作られています。抗がん剤でも同じような仕組みを作れないかという考えです。

薬害の闘いの歴史は、既に引き起こされた被害の救済にとどまらず、副作用被害を社会全体のリスクとして全体の負担で救済する仕組みを作ろうとするものでした。そして、救済制度は、副作用情報の収集と発信に大きな効果を示し、薬害の防止につながるのです。

薬害イレッサ訴訟は、今最高裁に継続しています。裁判勝利とともに制度創設を求めていきたいと思います。


首都圏建設アスベスト訴訟
国の責任を認める初の判決!!

弁護士 松田 耕平

これまでの事務所ニュースでも何度かお知らせしてきた「首都圏建設アスベスト訴訟」ですが、2012年12月5日、東京地方裁判所民事第41部(始関正光裁判長)は、建設現場で働く労働者に対する規制措置(マスク着用を罰則をもって義務づけること)を怠ったとして、国の責任を初めて認める画期的な勝利判決を下しました。

この裁判は、大工、電気工など多種多様な建設作業に従事した方々が、建設現場で数多く使われていたアスベスト建材の加工作業(切断、研磨等)によって発生したアスベスト粉じんにばく露し、肺ガン・中皮腫・じん肺など重い病気になったことを理由に、国とアスベスト建材の製造販売企業(42社)を相手に起こした裁判です。

5月には、横浜地裁が国と企業の責任を否定する不当な判決を下しました。今回の東京地裁判決は、横浜地裁の不当判決を乗り越え、国の責任を初めて認めた点で、高く評価することができます。

しかし一方では、いくつかの問題点もあります。一つは、原告は労働者、一人親方、零細事業主として建設作業に従事してきた方々ですが、これらのうち、国が責任を負うのは労働者に対してのみとした点です。しかし、建設現場での作業内容は全く同じであり、一人親方や零細事業主の方を除外する実質的な理由は全くありません。

もう一つは、アスベスト建材の製造販売企業が、アスベストの危険性などを建材に表示すべき義務を怠ったこと(警告義務違反)は認めたものの、原告各自が、どの企業の製造販売したアスベスト建材を取扱ったのかがはっきりしない(因果関係が明確でない)という理由で、企業の責任を認めなかった点です。建築現場で働く方々は、通常、数十年にもおよぶ職歴を通じて、何百・何千もの現場を渡り歩きます。

こうした方々にとって、自分が扱った建材が一体どの現場の企業のものであったかを特定することは困難です。建材企業が、アスベストの危険性を建材に表示していなかったという事情があるなかでは、ほぼ不可能といえます。このように、建設作業従事者に不可能を強いる一方で、その原因を作り出した建材企業の責任を認めなかったことは、大きな問題です。

こうした問題点を是正すべく、原告団は12月18日に控訴しました。闘いの舞台は東京高等裁判所へ移ります。訴訟は、東京・横浜の他、札幌、京都、大阪、福岡でも起こされており、全国的な広がりを見せています。今回の東京地裁判決を武器にしつつ、東京高裁や他の地裁で東京地裁判決が抱える問題点を克服して、全面解決を目指していきたいと思いますので、今後ともご支援をお願いいたします。