城北法律事務所 ニュース No.67(2013.1.1)

目次

原発問題 「福島原発避難者損害賠償請求訴訟」を提訴しました

弁護士 平松 真二郎

2011年3月11日に発生した東日本大震災とそれに続く福島原発の事故によって、現在も、多くの人々が、不自由な避難先で2度目の年越しを強いられています。

東京電力は、原発が全電源を喪失し原子炉の冷却機能を失ったとき、過酷事故に至ることを認識していました。にもかかわらず、安全よりも利潤追求を優先し、充分な対策を怠ってきました。その結果、今回の原発事故を引き起こし、未曾有の被害が発生しているのです。

加害者である東電は、被害者に対し、元の生活に戻れるよう原状回復する責任、さらには損害賠償の責任を負っています。しかしながら、東電は、自らの加害責任をあいまいにしたまま、被害者に対する賠償基準を一方的に決め、基準以上の賠償に応じない姿勢を鮮明にしています。この賠償基準は、避難を余儀なくされた人たちが生活を立て直すために充分なものではありません。

失った生活を取り戻し、人間の尊厳を回復し、人生の再出発を図るにふさわしい損害賠償を求めて、2012年12月3日、福島地裁いわき支部に「福島原発避難者損害賠償請求訴訟」を提起しました。

私も、弁護団の一員として、完全賠償との実現を目指してたたかい抜く決意です。この訴訟への皆さまのご理解とご支援を心からお願いいたします。


国公法裁判、弾圧から8年あまり 堀越明男さん、最高裁で無罪判決に涙

弁護士 菊池 紘

12月7日、最高裁は国家公務員法違反で起訴された堀越明男さんに無罪の判決を言いわたしました。判決は、政党機関紙を配れば一律に有罪とする検察官の主張を退け、職務の政治的中立をそこなうおそれが認められる場合でなければ、刑事罰を科すことはできないとして、堀越さんを無罪としたのです。政治活動を一律全面的に禁止しても憲法に違反しないとした猿払事件最高裁判決(1974年)を実質的に変更した画期的な判決です。

同時に言いわたされた宇治橋真一さんについては、「管理職的地位」などと実態にそぐわない認定をして、有罪とする不当判決でした。

この結果、管理職でない一般の公務員の政治活動は自由となりました。

裁判所前で私が判決内容を報告し「堀越さんと宇治橋さん、ふたりが言論の自由を守るために8年余りひたすら努力してきたことなしには、この無罪判決はなかった」と訴えると、堀越さんは感極まって、メガネを外して何度も涙を拭っていました。

国公法弾圧堀越事件……2003年11月、目黒社会保険事務所職員の堀越明男さんが、休日にしんぶん赤旗号外を配った行為が国家公務員法の禁止する政治的行為にあたるとして、逮捕起訴された事件。一審で有罪、二審で憲法違反とする逆転無罪。


原発問題 国と東京電力の責任を問う原発訴訟を提起します

弁護士 舩尾 遼

福島第一原発の事故から2年が経過しようとしています。しかし、被災地である福島では除染は遅々として進んでいません。生活・生業を奪われた方たちの生活は安定せず、それどころか営業損害、風評被害、健康被害、避難費用などの新たな被害はますます広がっています。にもかかわらず、東京電力は損害の全額を賠償しようとせず、わずかばかりの金銭を支払い福島原発事故に対する対応を終わらせようとしています。

また、東京電力は国策民営の下で原発を推進してきました。しかし、一度事故を起こすと取り返しのつかない被害を国民に強いる原発に、「営利」という概念を取り入れるべきではありませんでした。このような原発の設置を許し、また監督を怠った国の責任は重いと言わざるを得ません。しかし、東電、国の事故後の対応をみても、そこに誠実さのかけらもなく、自分たちが起こした事態に対する責任を負う態度はみられません。いったい人の生活をなんだと思っているのか。

帳簿に現れない損害以外、つまり地域を失った苦しみに対しても国と東電は責任を負うべきです。被災者は、元の地域、元の生活を取り戻したいだけなのです。私の所属する弁護団では本年度、国と東京電力の責任を問う訴訟を提起する予定です。ご支援をお願いいたします。


領土問題 尖閣問題の解決は歴史の事実と道理をふまえた外交交渉で

弁護士 加藤 幸

政府は尖閣問題について「領土問題は存在しない」をくり返すだけで、領有の正当性を明らかにする努力をしないできました。他方で過去の戦争を侵略と認めない一部の政治家は、尖閣について物理的対応や軍事的対応を挑発する言動をくり返しています。そうではなく、領土に関わる紛争があることを正面から認めて、理性的で冷静な外交交渉により、解決を図るべきです。その場合中国の人々も納得できるような配慮が必要です。


編入に慎重だった日本政府が閣議決定で尖閣諸島を領土に編入したのは1895年1月のことです。国際法上で領有権取得が認められる「先占」です。

他方でその時期は、日清戦争で日本の勝利がほぼ確実となった時でした。そうしたこともあり中国は、日本が戦争に紛れて下関条約により台湾の付属島嶼として盗み取ったのだと主張しています。


こうした経過をふまえると、ここでも、日清戦争に始まる50年戦争が侵略戦争であったことを認めて反省し、アジアの人々とともに平和を守る決意を明らかにすることが重要です。そうしてこそ、台湾など侵略で無法に奪い取った土地と尖閣のように正当に領有した領土とを区別して、領有の正当性を正面から明らかにし、中国の人々にも正確な理解を求めることができるのです。