城北法律事務所 ニュース No.74(2016.8.1)

法律改正

個人情報保護法が改正されました
みなさんも「個人情報取扱事業者」になるかもしれません

弁護士 加藤 幸

2015年9月、個人情報保護法の改正法が国会で成立しました。

個人情報保護法は、個人情報(※1)の適切な取り扱いのために事業者が守るべき義務等を定めた法律で、「個人情報取扱事業者」になると、個人情報保護法が定める義務を守る必要があります。

改正前の個人情報保護法(以下、「旧法」と呼びます)では、事業活動に利用する個人情報データベース等(※2)に登録されている個人データの数が5000人以下の事業者は「個人情報取扱事業者」にはあたらず、個人情報保護法の各規定は適用されないという適用除外規定がありました。

したがって、事業活動に個人情報データベース等を利用している場合でも、そこに登録されている個人データの数が5000人以下であれば、個人情報保護法が規定する義務を守らなくて済みました。

しかし、改正された個人情報保護法(以下「改正法」と呼びます)では、この除外規定が無くなり、取り扱う個人情報が5000人以下であっても個人情報保護法が適用されることになりました。

メールソフトやアドレス帳、リスト化された従業員や顧客の台帳、五十音順に整理しインデックスを付けてファイルに綴っている登録カード等は、個人情報データベースに該当しますので、これらを業務上利用している場合は、「個人情報取扱事業者」となります。また、法人だけでなく、個人事業主や、NPO、自治会等の非営利組織であっても、「個人情報取扱事業者」となります。

このように今回の改正によって、これまで個人情報保護法が適用されなかった方についても、個人情報保護法が適用されることとなりますので、注意が必要です。 

個人情報取扱事業者となると、個人情報を取得するにあたって、取得した情報の利用目的の特定及び公表が必要となります。また、個人情報を本人以外の第三者に提供するにあたっては、原則として本人の同意をとらなければなりません。

改正法は、2017年9月までに施行されることになっていますが、まだ、施行の具体的時期は決まっていません。しかし、個人情報取扱事業者となる方は、改正法施行までに準備が必要です。個人情報保護法の内容や守るべき義務について疑問がある方は、一度、ご相談ください。

※1 生存する個人情報に関する情報であって、氏名、生年月日、その他の記述等により特定の個人を識別することができるものをいいます。
※2 個人情報のうち、紙媒体、電子媒体を問わず、特定の個人情報を検索できるように体系的に構成したものをいいます。


刑事訴訟法の「改正」
取り調べの可視化、通信傍受の拡大など

弁護士 工藤裕之

1 今回の改正法は、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の2014年の答申を受けてのもので、その答申は裁判員裁判対象事件などの取調べに限って、取り調べの録音、録画を認める(これは「取調べの可視化」といわれるものです)という内容でしかありませんでした。

もともと、この部会は、厚労省事件における、検事による証拠の改ざんという重大事件をきっかけにして、冤罪を生まない刑事司法の改革のために設置されたものでした。

しかし、その答申やそれを受けた改正法案の内容は、ごく一部だけ取調べの可視化を認めたものの、刑事司法改革からは大きくかけ離れた他の重大な問題を多く含んでいるのです。そのため、広範な市民、法律家団体等が強く反対しましたが、参議院本会議での可決を経て、2016年5月24日、衆議院本会議で可決成立しました。

今後の運動のためにも、広く改正法の内容をお知らせすべきと考えます。

2 ごく一部の可視化と広範な例外 可視化対象事件は裁判員裁判対象事件と特捜事件などの検察官独自捜査事件だけで、全公判事件の3%にすぎません。しかも、これらの事件であっても、「記録すれば被疑者が充分に供述できない」と捜査機関が認めた場合や録音・録画機器の故障等の場合に、可視化の例外が広範に認められており、取調べの全過程の録音・録画ではなく、捜査機関の都合のよい取り調べのみの部分的録音・録画といった恣意的運用の危険がきわめて大きいと言えます。

3 通信傍受(盗聴)の大幅な拡大 従来と異なり、盗聴に際しての通信事業者の立会を不要とし、なおかつ、対象犯罪を、従来の薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型だけでなく、組織犯罪に限定する形をとっているにせよ、窃盗、詐欺、恐喝等といった一般犯罪にまで大幅に拡大している点がきわめて重大です。プライバシー侵害の程度は、質的にも量的にも大幅に拡大しているのです。

4 司法取引の導入 また、他人の公務執行妨害、文書偽造、汚職、詐欺、恐喝、薬物、銃器、証拠隠滅等といった「特定犯罪」に関わる刑事事件の供述をするのと引換えに自己の同様の「特定犯罪」に関わる刑事事件について刑事免責の制度の創設等も認めています。嘘を述べて無実の他人を犯罪に引っ張り込む重大な危険性を有しています。

しかも、証人を特定する事項の秘匿措置も認められており、そうなれば、証人がどういう人物かまったく知り得ない状況のもとで、弁護人が弁護活動を強いられるという信じられない事態が生じることになります。

5 まとめ 捜査機関が一部可視化の導入により捜査がしにくくなるので、そのため、捜査手法を大幅に拡大する必要があるという趣旨のようですが、まったく根拠のない論法というべきです。

今後もあるべき刑事司法を目指して、反対運動を展開してゆく必要があると思わずにはいられません。