城北法律事務所 ニュース No.77(2018.1.1)

新 春 憲法座談会
2018年改憲論にどう対抗するか

2017年10月末の突然の衆議院総選挙が終わり、安倍首相は憲法9条を中心とした改憲にむけていよいよ本格的に動き出そうとしています。そこで、城北法律事務所の弁護士が、憲法9条を中心とした改憲の動きにどのように対抗するのかについて座談会を行いました(大山勇一、加藤幸、久保木太一、大久保秀俊。司会:津田二郎。2017年11月14日開催)。 

第1 総選挙の結果をどうみるのか 

津田 2017年10月末に「国難」解散による総選挙が行なわれました。改憲論との関係ではこの結果をどのようにみたらいいですか。

大山 改憲の危険性は客観的に高まったといえそうです。自民党・公明党だけで衆議院の3分の2、さらに希望と維新を加えると改憲勢力が衆議院の8割の議席を占めました。

大久保 議席数だけでは測れないでしょう。今朝の新聞でも、公明党が改憲に批判的だとの記事が出ていました。与党内でも改憲についての意思統一がされていないということではないでしょうか。

久保木 立憲民主党が野党第一党になったことは大きいと思います。総選挙では希望の党の議席が見込み違いとなったので、自民・希望の保守二大政党制の下で改憲を進めるという野望がついえたといえます。選挙結果は公明党の改憲に対する立場にも影響を与えたと考えます。議席数では与党圧勝といえるかもしれませんが、安倍首相自身の支持率は高くなく、与党支持者が直ちに安倍首相の改憲論に賛成するとはいえないのではないでしょうか。

第2 北朝鮮情勢をどうみるのか  

津田 安倍首相の9条を中心とした改憲論との関係でも、北朝鮮情勢の見方は重要です。

久保木 昨年9月にND(新外交イニシアチブ)というシンクタンクの一員としてワシントンを訪問しました。当時はアメリカと北朝鮮の軍事衝突の危機が現実化するのではないかとして状況が緊迫していましたが、上院議員などと懇談したところ、圧力以外の対話による解決を模索する立場の人がたくさんいました。日本の圧力一辺倒の立場は特異に感じました。

大山 北朝鮮の「核の脅威」といいますが、「脅威」というためには核攻撃の意思とその能力が必要です。今の北朝鮮は、核攻撃の能力はあるかもしれませんが、核攻撃の意思はないので、「脅威」とはいえないと思います。

津田 「核攻撃の意思がない」とどうしていえるのでしょうか。

大久保 北朝鮮は、中国、ロシアの後ろ盾を失って、国際社会から孤立しないために、核ミサイルを飛ばす技術があることを見せることを外交のカードとして使っています。見せることに意味があるのであり、実際に使ってしまっては意味がありません。実際に核攻撃までしてしまえば負けることは必定ですし、カードを失ってしまいます。

津田 北朝鮮からの攻撃を防ぐために、日米関係をより強化すべきとの意見もありますが、その意見についてはどう考えますか。

加藤 現在、日本海で日米が一体化して軍事演習するなどしていますが、一体化が進めば進むほど日本が攻撃されるリスクはむしろ高まることになります。

大久保 日本は憲法9条のもと、武力行使はしない建前になっています。ところが日本海に展開している米空母は、北朝鮮を攻撃対象としています。日米が一体化するということは、日本もアメリカと一緒に北朝鮮を攻撃するとみられるということです。むしろ一体化せず、距離を置けば北朝鮮にも日本を攻撃する動機がなくなることになります。

加藤 北朝鮮は国際ルールを守らない無法者と評価されていますが、そうだったとしても自国を攻撃しない国を攻撃するほど道理がないことはしないでしょう。安倍首相は北朝鮮への圧力一辺倒ですが、トランプ大統領すら「友達になれる」といったことと比べても、強硬姿勢が突出していますね。

第3 安保法制について

津田 安倍首相は、9条を変える前に実質的に憲法9条の内容を変更する閣議決定を行い、安保法制を強行採決によって成立させました。そもそも憲法9条も安保法制も「平和を求める」という建前では一致していますが、どちらがより平和を求める力になるのでしょうか。

久保木 国際的なトレンドとしては「武力による平和」というスタンスはすでに時代遅れになっています。先に国連で成立した核兵器禁止条約を見ても、「対話による平和」というのが世界のトレンドです。

大久保 安倍首相は「武力による平和」を「積極的平和主義」と言い換えています。これに対して憲法9条は、不戦条約(1928年)の系譜で、戦争を違法化し対話による平和をめざすものです。  憲法9条があったことによって、日本は他国を攻撃していないしどこかの国を攻撃しようとすることもありませんでした。その結果、どこかの国から攻撃されなかったともいえます。ところが安保法制の下では、日本はアメリカと一緒になってどこかの国を攻撃する可能性があります。その結果、その国から攻撃されるリスクを負うことになります。どちらがより平和を求める力になるのかは一目瞭然ではないでしょうか。

加藤 先ほどの話に関連しますが、世界を見ても日本のアメリカへの追随ぶりは異質です。テロの標的になることも含め、アメリカに追随することがより日本を危険にさらしていると思います。

津田 自衛隊を海外に派遣することによる「国際貢献」が平和構築への力になるという意見もありますが。

大山 自衛隊のPKOへの参加は国際貢献につながるという意見も根強いですが、私は違うと思います。日本は軍事中心ではなく、民間を通じて医療や教育分野で貢献をしていたことが海外では高く評価されており、中東で親日派が多かったのはこの点を評価してのことでした。  今では自衛隊がPKOに参加することによって日本が「憎しみの連鎖」に加わりテロの対象となりつつあります。むしろリスクを多く負っているのではないかと思います。

大久保 日本は湾岸戦争では資金提供を、アフガン戦争では後方支援を、イラク戦争では兵站をそれぞれ行ないましたが、関与が深まるのに連れて日本人がテロの対象となるようになり、死者も出るようになりました。リスクが高まっているのは明らかです。安倍首相がエジプトでISに対抗する勢力に拠出金を出すという話をした直後に日本人ジャーナリストらが殺害されたのも無関係ではないと思います。

第4 憲法への自衛隊加憲論について

津田 自民党は、2017年5月に安倍首相が自衛隊が違憲だという批判をなくすためとして憲法に自衛隊を書き込むことを提案したことを受けて、新たに9条の2を設けるという提案をしています。この提案については、どう考えますか。

<参考>

9条の2 前条の規定は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織として自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない。
内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有し、自衛隊は、その行動について国会の承認その他の民主的統制に服する。

久保木 この条文ができたとしても「防衛するため」、「必要最小限度」、「実力組織」にそれぞれ解釈の余地があるので、憲法論争は続くのではないでしょうか。

大久保 「自衛隊」が憲法に入ることで、憲法上の存在としての自衛隊の存在感が大きくなります。そのため、予算増大、基地建設における強制収用、医療従事者等の徴用などのほか、核兵器の配備も可能となる可能性がありますが、憲法にそれらについてコントロールする規定がないのは大変な問題です。

加藤 「民主的統制に服する」というけれども国会の承認「その他」という規定からいうと事前でなくて事後も認められる可能性がありますし、そもそも国会の承認を必ず必要とすら規定していません。結局何でもアリとなってもはや統制とは言えなくなると思います。

久保木 これまで憲法という多数派の意向でも変えられないルールでコントロールしていたのが、多数派の意向でいくらでも変えられる法律でコントロールするとなったら、もはやコントロールできないのと同じです。

加藤 自衛隊には災害救助組織としての側面と軍事的組織としての側面の両面がありますが、軍事的組織としての側面の詳細は国民に明らかにされていません。また、軍事的組織をコントロールしようと思えば、「軍事的組織が何ができるか」ということをリスト化することが必要です。これができないならコントロールはできないと考えた方がいいと思います。

大久保 安倍首相の場合は、そもそも憲法9条によるコントロールを放棄しようとしているのであり、コントロールするつもりがないという点を見逃してはならないと思います。

第5 環境権・教育無償化などのための憲法改正について

津田 環境権や教育の無償化のためには憲法を変える必要があるという意見もあります。

大山 環境権も教育の無償化も憲法に定められていなくても政策によって実現できます。憲法で禁じられていないのですからやりたければ憲法に手を付けなくても実施すればいいのです。実際総選挙で与党は「保育の無償化」を公約に掲げましたが、選挙直後に出された政策は「認可保育園の無償化」にとどまりました。ここに与党のこの問題に対するやる気が見えたと思います。

久保木 良い改憲だったら認める、という考え方もありますが、私は「一字も変えない護憲」の立場により同調します。安倍首相の改憲論は歴史修正主義に基づくものです。先の大戦の反省から作られた日本国憲法を否定し、日本の過去の過ちをなかったことにしようという考え方です。歴史の中に憲法を位置付けるならば、憲法の基本的価値が十分に実現される前に憲法の中身を変える、という態度は許されないと思います。

加藤 もし憲法を変えるなら、「なぜ・どこを・どのように」変えるのかについてじっくりと長い時間をかけて議論する必要があります。安倍首相のように、「いつまで」と〆切をつくって議論を制限するのはおかしいです。

大山 むしろ護憲派から憲法を護るシステムを提案するという形で新しい改憲論を出すという意見もありますが、現憲法を護る、という議論が空洞化するし、憲法を変えるという雰囲気づくりに利用されるだけではないかと危惧します。

第6 2018年の改憲問題をどのように取り組むのか

津田 そろそろまとめですが、2018年に是が非でもクローズアップされる改憲問題にどのように取り組むのでしょうか。

大山 森友・加計問題はじめ、安倍首相がこれまでに何をしてきたかの怒りを忘れずに取り組むことが必要だと思います。事務所では安倍政権の下での憲法9条改憲反対の3000万人署名に協力して事務所として2500筆を目標に取り組みますので、事務所ニュースの読者の皆さんにもご協力いただきたいと思います。

大久保 国民投票法には、改憲の発議がされてから投票までの期間が短い、最低投票率の定めがない、公務員・教育者への強い運動規制があること、選挙運動の制限なく、費用の上限規制もないといった問題があります。特に宣伝効果が絶大なテレビの有料広告規制がないことは金で改憲を買う事態に至りかねず、問題が山積しています。まずは改憲案のおかしさを世の中に伝え、改憲の発議を阻止するために全力をあげるべきです。

久保木 子どもや孫にどのような社会を残したいかを考えて取り組む必要があります。今取り組みに悔いを残すことは将来に取り返しのつかない禍根を残すことになります。  自民党の弱点は党内議論がなく、安倍首相が独裁的に支配している点にあります。「安倍首相の下での改憲に反対する」という一致点を大切にして、多様性をもって協力しながら反対運動を多彩に進めたらよいと思います。

加藤 「安倍政権の下での改憲には反対する」という一致点を守りきることが必要だと思います。安倍首相は決して国民のために改憲をしようとしているのではないということを多くの人に理解してもらうことが大切です。安倍首相は自分が改憲したという実績が欲しいだけ。森友・加計問題を見ても、閣僚人事を見ても、安部首相は自分に同調する人ばかりを重用して政治を私物化しています。こんな政権に改憲という重要事項のかじ取りを任せることは到底できません。政治は国民のためにあるべきもの、憲法は国民を守るものという観点から安倍首相のやることを見てほしいと思います。

津田 2018年、城北法律事務所としても改憲論に対抗するために力を発揮したいと思います。本日はありがとうございました。