城北法律事務所 ニュース No.77(2018.1.1)

債権回収 アパートの店子が賃料を滞納

弁護士 深山麻美子

Q1 アパートの店子が賃料を半年分も滞納したまま退去してしまいました。支払ってもらうにはどうしたらいいですか?

A1 一括で支払ってもらうのがベストですが、どうしても無理な場合には分割払い約定書を作り、分割で支払わせてはどうでしょうか。

Q2 これまで何度も分割ででも支払うように言いましたが、のらりくらりと言い逃ればかりで、未だに支払ってくれません。

A2 分割払いの話し合いも進まないのであれば、簡易裁判所に対して支払督促の手続きを行い、裁判所から支払うように督促してもらう方法があります。また、60万円までは簡易裁判所に対して少額訴訟を提訴する方法もあります。

Q3 裁判手続きをするのはやっかいそうです。

A3 裁判所のホームページを見ると、手続き方法などが記載されていますので、参考にしてください。もちろん弁護士に依頼してしまう方法もあります。

Q4 滞納賃料はいつまで請求できますか。

A4 賃料の消滅時効は5年と定められています。もし、すでに5年が経過し、かつ相手方が時効で消滅したから支払わないと主張すれば、法的に請求できなくなります。

Q5 実は、店子が退去してから8年近くたちます。近くに引っ越したのでこの間何度も口頭で支払うように催告したり、定期的に請求書を送り続けています。このような場合でも、5年を経過すれば時効で消滅してしまうのですか。

A5 このような裁判以外での催告も、消滅時効期間を延長する効果はあります。ただ、催告後6か月以内に裁判や調停申立などの手続きをしないと消滅時効を中断すなわちリセットすることはできません。

Q6 催促に行くたびに、店子がもう少し待ってくれと懇願するので待ってあげていました。それなのに、時効で消滅してしまうなんて納得できません。

A6 支払猶予を求めることは、債務の承認にあたりますので、消滅時効は中断されます。

ただ、店子が支払猶予を求めたことはないと開き直る可能性もあります。FAXや、メール、手紙、その他何か店子が支払猶予を求めたとみられる記載がないか、捜してみてください。

通常の債権と違い、賃料は消滅時効が短く定められていますが、裁判や調停等で権利が確定すれば、10年の消滅時効になります。時効で請求できなくなる前に、早めの段階でご相談にいらして下さい。


ペット問題 ペットは大事な家族 問題が起こったら

弁護士 野口景子

Q1 飼い犬と散歩中、信号無視をした車にはねられました。私の治療費は支払われましたが、大怪我をした飼い犬に対する責任を追及できませんか。

A1 人が怪我をした場合、治療費の全額が損害として認められますが、ペットの場合、そのペットの「時価」の限度でしか、治療費が損害として認められないのが原則です。
 飼い主にとっては大事な「家族」でも、法律上ペットは「物」として扱われているためです。

Q2 大怪我をさせられたのですから、慰謝料も請求したいのですが。

A2 法律上「物」であるペットに慰謝料請求は認められません。ただし、ペットが交通事故などで大怪我をしたり死んでしまった場合、例外的に、飼い主の慰謝料請求が認められることがあります。簡単に買い替えができる物とペットでは、持ち主(=飼い主)の精神的苦痛には違いがあると考えられるからです。

慰謝料が認められる場合、人が怪我をしたケースより低額ですが、数万円から数十万円程度とされることが多いようです。


Q3 うちの犬が散歩中に通行人を噛んでしまいました。

A3 飼い主は「動物の占有者」として「相当の注意」を払ってペットを管理していたと認められない限り、損害賠償の責任を負います(民法718条1項)。犬を放し飼いにしていた場合はもちろん、散歩中、誤ってリードを放してしまった場合も「相当の注意」をしていなかったと判断されることが圧倒的に多く、この場合、飼い主は損害賠償の責任を果たす必要があります。

Q4 何を賠償するのですか?

A4 被害者の治療費、通院のための交通費、慰謝料、被害者が会社を休まなければならなかった場合には休業損害などを負担する必要があります。

Q5 通行人が急に近付いてきて乱暴に触ったため犬が驚いて噛んでしまったのです。結論は変わりませんか?

A5 被害者にも落ち度があった場合、損害の一部は被害者が負担すべきと判断されることが多いと思われます。その分、飼い主が責任を負う賠償金が減額されます。


Q6 退職後にペットを飼い始めました。ペットより先に私が死んでしまったらどうしようと悩んでいます。

A6 法律上ペットは「物」ですから、信頼できる親族や知人に譲ることができます。いくつか方法がありますが、遺言書に書くのが簡単でしょう。ペットの世話を引き受けることを条件にペットの飼育に必要なお金も遺せば、相手の負担を最小限に抑えられることができます。

ただし、相手の都合もありますから、遺言書を書く前に相手に希望を伝え、話し合っておく方がよいでしょう。

大事な家族であるペット。家に迎え入れた日からお別れのときまで、しっかりケアしてあげたいものですね。