城北法律事務所 ニュース No.78(2018.8.1)
目次
- Page 2
- 1 今こそ、憲法改正よりも東アジアの平和構築を
- 2 国民投票法の問題点
- Page 3
- 1 約款規定の新設
- 2 売主と請負人の契約不適合責任が新たに規定されました
- 3 敷金ルールの明文化
- 4 消滅時効規定の見直し
- 5 保証ルールの見直し
- 6 変動利率
- Page 4
- 1 1964年の片平キャンパス
- Page 5
- 1 ネットで誹謗中傷
- Page 6
- 1 暑中お見舞い申し上げます 2018年 盛夏
- Page 7
- 1 第一生命株主代表訴訟
- 2 原発被害に取り組む全国の原発訴訟について
- 3 建設アスベスト訴訟 ~東京高裁で2連勝! 舞台は最高裁へ~
- Page 8
- 1 憲法委員会公演企画 『変わるべきは何か〜憲法9条と北朝鮮』
- 2 新事務局長紹介
特集 民法改正
約款規定の新設
弁護士 小薗江 博之
クレジットカードや保険に加入したときに会社から送ってくる約款を読まれたことはありますか。インターネットサイトの利用規約は読まれていますか。
現代社会では様々な約款が利用されていますが、民法には今まで約款に関する規定がありませんでした。今回の民法改正で「定型約款」を規定し、定型約款に該当する場合に、一定の効果を認められることになりました。
鉄道やバスの運送約款、電気・ガスの供給約款、預金約款、旅行約款、引越約款などは定型約款に該当すると思われます。
約款は、大量の取引を合理的、効率的に行うため、いちいち条項を確認しながら合意内容を確定していくことなく、予め定められた画一的な契約条項に拘束力を認めるものです。
約款での取引をしている事業者の方は、その約款が「定型約款」に該当するものであるかをチェックしておく必要があります。
事業者でなければ生活にすぐに大きな変化はありませんが、ルールが定められたと理解し、これを機に保険約款、クレジットの約款などはできるだけ目を通されることをお勧めします。カードを失くしたときは直ちに連絡する必要があります。
また契約書に添付される定型約款ではない約款は、一旦署名捺印すると拘束力があるので、後で見ていなかったら効力がないとは言えず、取り返しのつかない事態になることがあります。建築や通販は、契約約款に注意を要します。申し込んだ後は、通常撤回できません。
売主と請負人の契約不適合責任が新たに規定されました
弁護士 深山 麻美子
1 売主の契約不適合責任
現行法では、売買の目的物に欠陥等があった場合、買主は売主に、目的物が特定物の場合は瑕疵担保責任、それ以外の場合は債務不履行責任を求めるとされています。
改正法では、特定物か否かで区別することをやめ、瑕疵担保責任を廃止し、売主は契約内容に不適合な目的物を引渡した場合は契約不適合責任を負うと定めました。これにより買主は目的物の修補や代替物引渡を求めたり、損害賠償、契約解除、代金減額を請求できるとしました(但し、買主は契約に適合しないことを知ってから1年以内に売主にその旨の通知をしなければなりません。)。
2 請負人の契約不適合責任
請負でも現行法の担保責任を廃し、請負人は仕事の目的物が契約内容に不適合な場合、契約不適合責任を負うとしました。これにより注文主は請負人に修補や報酬減額、損害賠償、代金減額請求、契約解除ができるとされました(但し、この場合も不適合を知って1年内に通知することが必要です)。
敷金ルールの明文化
弁護士 田見 高秀
住居や事務所を借りると敷金として家賃の1ヶ月から3ヶ月分位のお金を家主に支払います。よく経験することなのですが、実は、いままで民法の賃貸借契約の中に、①敷金とは何なのか、②借りたものを返すときに敷金はどうなるのか、戻ってくるのかなどの点を決めた条文がありませんでした。今回の民法改正で、①は敷金の定義、②は敷金から控除される原状回復費用の範囲について明確にした条文が置かれることになりました。
① 敷金
改正民法622条の2が定義で、敷金とは「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」をいうとなっています。賃料債務とは建物では家賃のことで、借りた物を返すときまだ払ってない家賃があったら敷金から差し引かれてしまうということ。それ以外の債務で、賃借人の負担となる債務の最も大きなものが原状回復義務の費用です。
② 原状回復ルール
住宅を借りていて引っ越すことになり、家主に部屋を見てもらったら、クロスに焼けこげを付けてしまっていて直す費用がかかるからその分の費用は敷金から控除ですよと言われた場合を考えてみて下さい。では畳が長く同じままだったので、日焼けしているから新品の畳に替える費用は借りた人負担と言われたらどうでしょう。エーそこまでと思われるかたも多いでしょう。改正民法621条がこの条文。「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」。賃借人に責任がない損傷は、損傷があっても、そこまで責任は追わない。普通に使っていて古くなっただけで経年劣化の場合はそもそも原状回復責任はないという訳。
大体は、これまでの判例で明確になっていた内容での法律改正ですが、民法ではっきりとした条文が置かれることで、トラブルの解決に役立つと思います。
消滅時効規定の見直し
弁護士 木下 浩一
1 はじめに
債権法改正では、消滅時効期間などの大幅な見直しが行われます。消滅時効とは、皆さんがある人に対して債権を有していても、一定の期間を経過すると権利の行使が認められなくなってしまうというものですので、極めて重要な改正と言えます。なお、本文章は、一般の方向けの説明ですので、一部簡略化しています。時効について気になる方は、専門家にご相談ください。
2 現行法
現行法では、消滅時効にかかる期間を原則10年としつつ(例えば個人間での貸金返還請求権)、飲み屋のツケは1年、弁護士報酬は2年、工事の請負代金は3年、商取引によって生じた債権は5年などと債権の性質ごとに個別に時効の期間が定められています。
3 改正法
改正法では、債権者が権利行使をすることができることを知った時から5年間、または、債権者が権利を行使できるときから10年間のいずれか早い方で時効にかかると原則的に統一されることになります。
4 改正法による影響
その結果、個人間の貸金で言えば、貸主は、返済期限を過ぎれば貸金を権利行使できることは知っているはずなので、従来の10年より短い、返済期限から5年で時効にかかることになってしまいます。他方で、工事の請負代金については、3年を経過しても請求できる可能性がありますので、改正を知らないと、請求できるものを諦めてしまうことになりかねません。
5 交通事故や残業代
なお、不法行為に基づく損害賠償請求権(例えば交通事故)については、生命・身体に対する侵害については、損害及び加害者を知った時から5年間(物損については従来どおり3年間)、または不法行為の時から20年のいずれか早い方で時効となります。
また、未払の残業代などの労働債権については、現在議論されていますが、今のところ従来の2年のままですので、ご注意ください。
保証ルールの見直し
弁護士 加藤 幸
1 事業に関する債務の保証についての新しいルール
改正民法では、事業のために負担する債務を個人(ただし、取締役や執行役、理事、株式の過半数を有する株主、共同事業者、事業に関わっている配偶者は除く)が保証する場合には、保証契約締結前に公正証書において保証意思を確認することが必要となります。このため、事業に関する債務を個人が保障する場合には、事前に公証人に対し、主債務・保証債務の内容や保証債務を履行する意思があることを詳しく話して、これを公証人に筆記してもらい、その内容を確認して署名押印することが必要となります。もしこの手続きを欠けば、保証契約は無効となります。
また、事業のために負担する債務について、個人に保証を委託する時には、主債務者は自分の財務状況や他の債務の額及び支払状況、主債務の担保の有無について、保証人になろうとする人に正しく情報提供する必要があります。もし正しい情報提供がされなかった場合には、保証契約の取り消しが認められる場合もあります。
2 契約締結後の情報提供義務
主債務者から委託を受けて保証人になった場合に、保証人が債権者に対して主債務者の支払状況について問い合わせをした時は、債権者はこれらの情報を提供しなければなりません。
変動利率
弁護士 松田 耕平
現在の民法では、利率は年5%と固定されています(404条)。今回の改正民法では、まず、この利率を原則3%とします(商事法定利率は年6%ですが、これも年3%とされる見込みです)。
その上で、この「3%」という利率を固定せず、実勢金利の上下に対応して「変動」させようというのが改正の眼目です。どのように変動させるかについては、3年ごとに、過去5年の平均短期貸出金利を指標として1%以上の増減があった場合に1%刻みで反映をさせるということが考えられています。なお、いつの時点の利率を適用するかについては、その利息や債権が発生した最初の時点とされています(ただし、民法改正前に発生した債権については、改正の影響を受けず従来通りの法定利率となります)。
もっとも、この利率は任意のため、個別の契約で異なる利率の取り決めをすればそちらが優先されます。したがって、今回の改正で主に影響を受けるのは、①利率について取り決めをしないことの多い事業者ではない人同士の契約(売買契約やお金の貸し借り(=金銭消費貸借契約)など)、②不当利得や不法行為などの法定債権の利息あるいは遅延損害金、③交通事故などの人身損害賠償における逸失利益を計算する中間利息控除の際の利率などが考えられます。
今回の改正の趣旨は、従来の法定利率(年5%)が、市中金利と比べるとかなり高く、実態に合わないと批判されてきたことから、これを解消しようというものです。当面はまだ法定利率より市中金利が低い状態で推移すると考えられることから、①②については受け取る金額が低くなる方向に、③については受け取る金額が高くなる方向で影響すると思われます。このような影響を回避するためには、例えば①のように個人間でお金の貸し借りをしたり物を売り買いする契約を取り交わす際に、契約書で貸付金や遅延損害金の利率を明確に定めておくことが必要となります。
いずれにせよ、従来と比べて計算方法は複雑となります。したがって、民法改正後に契約を取り交わす際や損害賠償を請求しようとする際には、一度、ご相談いただいた方が良いと思います。