城北法律事務所 ニュース No.78(2018.8.1)
目次
- Page 2
- 1 今こそ、憲法改正よりも東アジアの平和構築を
- 2 国民投票法の問題点
- Page 3
- 1 約款規定の新設
- 2 売主と請負人の契約不適合責任が新たに規定されました
- 3 敷金ルールの明文化
- 4 消滅時効規定の見直し
- 5 保証ルールの見直し
- 6 変動利率
- Page 4
- 1 1964年の片平キャンパス
- Page 5
- 1 ネットで誹謗中傷
- Page 6
- 1 暑中お見舞い申し上げます 2018年 盛夏
- Page 7
- 1 第一生命株主代表訴訟
- 2 原発被害に取り組む全国の原発訴訟について
- 3 建設アスベスト訴訟 ~東京高裁で2連勝! 舞台は最高裁へ~
- Page 8
- 1 憲法委員会公演企画 『変わるべきは何か〜憲法9条と北朝鮮』
- 2 新事務局長紹介
事件報告
第一生命株主代表訴訟
弁護士 阿部 哲二
本年5月9日、阿部、津田、加藤の3名の弁護士は、第一生命保険ホールディングスの元社員でもある株主のAさんより依頼を受けて、第一生命の現会長と元会長、そして前監査法人に対し、約20億8千万円を第一生命に支払うよう求める株主代表訴訟を東京地方裁判所へ提起しました。
株主代表訴訟とは、取締役ら役員が会社に損害を与えたにもかかわらず会社がその役員の責任を追及しない場合に、会社に代わって株主がその役員を訴え会社へ賠償するよう求める訴訟です。
皆さんも実感されていると思いますが、最近の生命保険は様々な特約が付加されており、どのような場合に保険金が受け取れるのか契約者は良く分かっていません。保険会社は、このような場合に対応して、保険金が請求できますよと案内すべきですが、第一生命では経費削減を優先して充分な組織の整備を行わず、平成17年までに数多くの支払漏れを放置していました。
今回の訴訟で原告となった元社員Aさんは、このような実態を見過ごせないと金融庁への公益通報を行い、金融庁は平成27年秋には第一生命への立入調査も実施、第一生命はこの年の12月に、平成17年度までの支払い漏れ約7200件について支払いを完了した等と公表してきました。ところが、実際はもっと多くの保険金支払い漏れがあったのです。しかし、平成17年から既に10年を経過し病院のカルテや診断書の収集は難しく、支払うべきかどうかの資料を確認するのは困難となっていました。そこで、第一生命では、法的根拠の確認もできないまま、見舞金等の名目で総額約17億円にものぼる支払いを実施し、経費等を含めると20億にもなる支払いを行って会社に損害を与えていたのです。
Aさんは、生命保険の重要さから、保険会社は請求案内を誠実に行って支払い漏れを防ぎ、契約者の権利が守られなければと考えてきました。本来支払われるべき人に保険金が払われず、いい加減な見舞金処理を許したままにしていてはいけないと、現役社員当時から勇気をもって公益通報を続け、退職後この代表訴訟に踏みきったのです。
株主代表訴訟の被告は、あくまで役員である個人です。会社そのものは被告とはなりません。
株主が、会社の利益、保険契約者の利益、ひいては株主の利益のためにと、役員に会社に損害賠償するようにと求めて裁判を起こすのですから、本来、会社はこちらに味方して様々な情報を提供してくれても良いはずです。ところが実際は、そうはなりません。会社と役員は手を組んで、こちらの裁判に立ちはだかってきます。
この裁判は、何よりも保険契約者の利益を守るための裁判だと考えています。また、契約者の利益を守ろうとしない金融庁の姿勢をただす裁判にもなっていくと考えています。
皆さん、ぜひ、この裁判の成り行きを見守り応援して下さい。
原発被害に取り組む全国の原発訴訟について
弁護士 舩尾 遼
福島第一原子力発電所で原発事故が起きてから7年が経過しました。原子力発電所周辺では放射性物質による汚染が継続し、避難者の帰還のめどはたっていません。また、避難をしていない滞在者は、今なお放射性物質の被害に恐怖心を抱きながら生活しています。
国と東京電力に対して原発事故の責任があるとして損害賠償請求を求める集団訴訟が全国で20を超える裁判所でたたかわれています。私を含めた城北法律事務所の弁護士たちも各地の裁判所で集団訴訟の弁護団に参加し、7年間たたかってきました。
昨年3月から今年の3月にかけて、前橋、千葉、福島、東京、京都の各地裁で集団訴訟の判決が出されました。この判決のうち、千葉地裁判決を除く4つの判決が国の責任を認める判断をしました。簡単にいうと、2002年の時点で国は本件事故を引き起こすような津波の到来を予見できたにもかかわらず、何も対策をしなかった、だから事故が起きた。という判決です。
国は、東京電力をはじめとした電力会社、原発利権の原子力ムラに忖度をし、一度事故を起こせば取り返しのつかない被害が発生する原子力発電所の安全対策をコストがかかるからといって放置したことが司法の場でも明らかになりつつあります。にもかかわらず、国は控訴審で、当時技術的に確立していなかった確率論的安全評価という手法を持ち出して、その確立していない手法でやると決めたから放置していなかったのだと見苦しい主張をし始めています。そこに200万もの福島県民に耐えがたい、回復不可能な損害をあたえてしまったこと、肥沃な国土を喪失させたことに対する反省は全くありません。
また、全国各地で出された地裁判決の損害賠償額は非常に不十分なものです。国や東京電力が分かっていたのになにも対策をしなかった結果、原発事故が起きて損害が発生したのですから、被害者の損害に真摯に向き合った十分な賠償をすべきことは明らかなはずです。
控訴審では、地裁で出された国と東京電力の責任を認める判決を維持しつつ、さらに十分な損害賠償を認めさせる必要があります。みなさまのご支援をお願いいたします。
建設アスベスト訴訟 ~東京高裁で2連勝! 舞台は最高裁へ~
弁護士 松田 耕平
このニュースでも度々ご報告してきた首都圏建設アスベスト訴訟ですが、昨年10月と今年3月、東京高裁での判決が相次いで出ました。今まで地方裁判所での判決は多数出ていましたが、高等裁判所での判決は初めてです。
結果はいずれも国の責任を認めるもので、これで国に対しては8連勝となりました。とくに今年3月の判決は、今までどの裁判所も認めてこなかった一人親方に対する国の責任を、はじめて正面から明確に認めたため、多くの一人親方が救済の対象となる画期的なものでした。
一方、アスベスト建材の製造企業の責任については、昨年10月の判決は認めたものの、今年3月の判決は認めませんでした。このように結論が分かれたとはいえ、地方裁判所にとどまらず、高等裁判所でも企業の責任が認められた点は非常に大きな意義があります。
いずれの判決も上告されたため、舞台は最高裁へ移りました。今秋には大阪高裁でも2つの判決が予定されています。
提訴からはや10年。この間に亡くなった原告の方も沢山います。「あやまれ、つぐなえ、なくせアスベスト被害」を合い言葉に闘ってきたこの裁判もいよいよ大詰めです。全面解決を目指し、政治や世論を巻き込んでいきたいと考えていますので、これからもより一層のご支援をお願いいたします。