城北法律事務所 ニュース No.84(2021.8.1)

目次

改正憲法改正手続法が成立
~公正・公平な国民投票実施にはまだ大きな問題が残る~

弁護士 平松 真二郎

憲法改正手続きを定める改正改憲手続法が、6月11日の参院本会議で、自民党、公明党、立憲民主党などの賛成多数により可決成立しました。成立した直後に、加藤勝信官房長官が、災害時などに国の権限を強化する緊急事態条項を創設する憲法改正について「新型コロナウイルスによる未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態に対する関心が高まっている。議論を提起し進める絶好の契機だ」と述べるなど、今後、自民党改憲4項目について「国会の発議」に向けて議論を押し進める構えを見せています。

改憲手続法は2007年に成立した法律ですが、当時から、18項目にわたる参議院の附帯決議において議論すべき多数の問題点が残されていることが明らかにされていました。制定時の附帯決議の中でも、①最低投票率の問題と②テレビ・ラジオの有料広告規制の問題は、公正・公平な国民投票を実現するために重要な問題点です。さらに、制定後には、③インターネット広告やインターネットによる国民投票運動の規制の是非という新たな問題点も浮上しています。①は、投票で「過半数の賛成」が得られても、投票した人が少ない場合には国民の多数意思が示されたことにならないのではないか。そこで、最低投票率を定めて、達しない場合に投票を不成立とすべきではないかという問題です。②は、現行法では、賛成・反対を勧誘するCMは投票日の14日前から禁止されますが、それまでの間は自由に行うことができ、また、賛成・反対を勧誘しないCMは、いつでも自由に流すことが許されています。このままだと資金力の多寡によってテレビ・ラジオ等のCMの出稿本数に格差が生じ、国民の判断がゆがめられるのではないかという問題です。③は、ネットにおいては、偽情報の流布やフェイク広告の制作を完全に防止できず、これも国民の判断に影響を与えるのではないかという問題です。

今回の改正においては、投票の利便性を向上させるために駅や商業施設でも投票できる「共通投票所」の導入など、公選法に設けられてきた規定を「国民投票法」に導入する内容は含まれていますが、公正・公平な国民投票の実施に必要な上記3点の問題点について論じられることはありませんでした。かろうじて、国民投票運動の際の政党スポットCMやインターネット広告の規制を巡り、施行後3年をめどに必要な措置を講じることが附則に盛り込まれたにとどまります。このままでは、制定時の附帯決議で検討の必要が指摘されていながら14年間にわたって議論が放置されてきた問題点が解消されないまま、公正・公平を欠く歪められた国民投票が実施されてしまうのではないかという懸念をぬぐうことはできません。

憲法審査会は、近代憲法の基本となる考え方である立憲主義に基づいて、徹底的に審議を尽くすとされています。今回の改憲手続法改正では、重要な問題点について審議を尽くしたとはいえないままおかれています。改憲論議に前のめりになる前に、公正・公平な国民投票が実施できるよう、改めて改憲手続法の抜本的改正が必要であると思います。