城北法律事務所 ニュース No.84(2021.8.1)

目次

<事件報告>訴訟の現場をゆく ~第2回・赤羽編~

弁護士 片木 翔一郎
弁護士 和田 壮一郎

【大山地域だけじゃない道路問題】

前回の訴訟の現場をゆく ~第1回大山編~では、板橋区のハッピーロード大山商店街が「補助26号線」道路計画により存亡の危機にあることをお話ししました。実はこのような道路計画は大山地域に限ったものではなく、東京のあちこちに存在します。そして、そのなかでも私たち城北法律事務所の弁護士が地域のみなさんとたたかっているもう一つの裁判が、「補助86号線」道路計画の事業認可取消の裁判です。今回は、この道路計画により大きな問題に直面している北区赤羽地域をご紹介しましょう。

【道灌(どうかん)山】

池袋から埼京線で北に3駅先のJR赤羽駅。その西口から南に数分歩くと、切り立った高台に住宅が並んでいる一帯があります。実はこの高台はただの高台ではありません。江戸城も作った戦国武将「太田道灌」が築城したと言われる稲付城という砦の跡地で、地元では道灌山と呼ばれています。ふもとの細い階段をのぼっていくと、赤羽の繁華街から数分の距離とは思えないほど静寂な空間に出ます。まるで階段を通って別世界に迷い込んだようで、ひっそりと静まり返っています。実はここはかつて稲付城の本丸があったところで、現在は静勝寺というお寺になっており、地域住民の憩いの場なのです。今回問題となっている補助86号線は、この道灌山を通過する計画となっています。

【弁天通り】

次に、道灌山を降り、弁天通りというバス通りを歩いて、付近にある自然観察公園という大きな公園を目指します。

しかし、この弁天通りですが、よく見渡すとなにやら様子がおかしい。道路の両脇に不自然な空き地が多々あり、たくさんのポールが立っています。実は、先述の補助86号線計画の一環として、この弁天通りも拡幅される計画になっているのです。そのため、既に拡幅のために準備された一部の土地が空き地になっていたのです。

【自然観察公園・スポーツの森公園】

弁天通りを進んでいき急激な上り坂を上ると、自然観察公園につきます。この広大な土地は、もともと、旧日本軍、米軍、自衛隊と順に使用されていたものです。最終的にその跡地の一部を利用して、区と区民が一体となって公園として整備したという歴史があります。

また、その後、跡地の残部も、サッカー競技場を中心とするスポーツの森公園として整備され、現在では二つの公園が一体となって大きな公園を形成しています。さて、自然観察公園では、その名の通り豊かな自然と触れ合うことができ、特に自然の湧水によるじゃぶじゃぶ池は、野鳥などが訪れるとあって人気スポットとなっています。

また、園内には江戸時代の古民家を移設した北区ふるさと農家体験館や、バーベキューサイト(感染症対策により閉鎖中の場合あり)もあり、家族で楽しむことができます。

補助86号線は、これら二つの公園の中も通過していく計画になっています。

【道路計画の問題点】

さて、以上のように道灌山~自然観察公園を通過する補助86号線の計画ですが、一体何が問題なのでしょうか。まず、道路が開通すれば道灌山と自然観察公園の一部が大きく切り取られ、豊かな自然や区民の憩いの場が失われるという問題があります。とりわけ、補助86号線の工事は自然観察公園内の湧水点を破壊し、じゃぶじゃぶ池を枯らしてしまうおそれがあります。

次に、工法の問題があります。実際にこのルートを歩いてみるとよくわかるのですが、道灌山から自然観察公園までは非常に起伏があり、ここに大きな道路を直線的に通すのは非常に難しく、本当に実現できるのか疑問です。

そして、驚くべきことに、事業認可がおりているにもかかわらず、このような起伏のある地形について実際にどのような工法で道路を通すのかがいまだに決まっていないという大問題があります。

さらに、道路計画が付近の住民の生活を様々に脅かすという問題があります。特に、地盤沈下は一番の問題です。都が情報公開に応じた関係資料によると、道路工事により道灌山近辺の住宅で大きな地盤沈下を起こすおそれが排除できないとされています。また、道路を大型車が通るようになればガスの排出量、騒音、交通事故等が増加します。

以上のように多数の問題を抱える道路がなぜ計画されたのでしょうか。実は、この道路が計画されたのは戦後まもないころなのですが、ずっと放置されてきた計画が、平成25年頃になっていきなり再始動したという経緯があります。こ

の道路計画については、付近の交通渋滞の緩和や防災道路化などともっともらしい理由が付けられています。

しかし、実際には交通量が近年減少傾向にあるため、渋滞はほとんど起こっていません。また、弁天通りは東日本大震災で電柱が大きく傾いたほどの軟弱地盤で地震に弱く、さらには谷底低地のため荒川氾濫による浸水・洪水のおそれもあり、防災道路としていざというときに役に立たないとも考えられています。都や区がなぜ最近になって戦後まもなくの道路計画を引っ張り出してきたのか、その真意はわかりません。

しかし、補助86号線が区民の生活を破壊してまで本当に必要な道路なのかどうかは、現在の実情に照らして判断されるべきです。

【終わりに】

「訴訟の現場をゆく~第2回・赤羽編~」はいかがでしたでしょうか。少し都会の喧騒に疲れてしまったという方や、人が多いところを避けて屋外で家族で楽しみたいという方は、道灌山と自然観察公園に足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

さて、この、補助86号線の事業認可取消の裁判も2~3か月に1回の頻度で東京地方裁判所にて行っています。こちらの裁判についても、先日、静勝寺の住職さんや地域住民の方の証人尋問をおこなったばかりで、佳境に入っています。次は8月24日の期日でさらなる証人尋問を実施予定です。

一般の方でも予約など無しで傍聴ができますので興味のある方はぜひ裁判所へ足を運んでみてください(※傍聴希望多数により傍聴券が必要となる場合があります。傍聴券抽選の有無や抽選時間などは東京地方裁判所にお尋ね下さい。)。では、「訴訟の現場をゆく」、また次の現場でお会いしましょう。

See you!