城北法律事務所 ニュース No.85 2022 新年号 (2022.1.1)

目次

<事件報告>建設アスベスト訴訟・新局面へ
国による給付金制度の開始と建材メーカーに対する新規提訴

弁護士 松田 耕平

前号のニュースでご報告した2021年5月17日の最高裁判決を契機として、建設アスベスト訴訟は大きな動きを見せています。その一つが、国による被害補償を内容とする給付金制度(「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」)の創設です。この裁判を起こした目的の一つに、「裁判によらないアスベスト被害の早期補償制度(基金)の創設」を掲げていましたが、これが2022年2月から運用が開始される見込みとなっています。

この制度について簡単に説明すると、1975(昭和50)年10月1日から2004(平成16)年9月30日までの間に建設作業に従事したことがあり、この作業が原因でアスベストの病気(アスベスト肺、肺ガン、中皮腫など)になったと診断された方に対し、国が病気の重さや進展度合いに応じて一定額の給付金(550万円~1300万円)を支給するというものです。すでに労災制度等によって国から補償を受けている方も支給対象となります。ご自身はもちろん、お知り合いに条件に該当しそうな方がいる場合には、申請を検討されることをお勧めします。ただし、働いていた時期や仕事の内容によって給付対象に該当するかどうか微妙な場合もありますので、詳細については弁護士(弊事務所では松田、平松、加藤が弁護団として活動しています)にご相談ください。

この給付金制度は、国が責任を負う部分、つまりアスベスト被害の半分(2分の1)相当額についての補償を定めたもので、残りは支給されません。国の他に責任を負うべき加害者にはアスベスト建材を製造販売してきたメーカーがいます。したがって、本来は建材メーカーが残り半分を負担するべきです。しかし、建材メーカーは、これまでの裁判で国と同様に責任が認められてきているにもかかわらず、まだまだ闘う姿勢を崩そうとはしていません。これが、給付金制度による完全(全額)賠償の実現に至っていない大きな要因です。企業の社会的責任が問われる昨今、本来であれば早期に謝罪して迅速な被害補償に向けて取り組むことが求められるのに、不当・不誠実な姿勢を続けるのは残念としか言いようがありません。

こうした建材メーカーに対しては、多くの被害者が裁判を起こすなどして声を挙げ、より一層責任が重大・悪質であることを認めさせ、その対応が不当・不誠実であることを今以上に広く周知するなどして、企業のあり方を世に問うことが必要です。そこで、弁護団及び支援組合は、その一環として、アスベスト被害者の給付金申請への取り組みと平行して、建材メーカーに対して新たに裁判を起こすべく、新たに原告となる方の募集も開始することにしました。国に対する給付金申請についてご相談いただく際には、この点についても詳細をご説明しますので、ぜひお気軽にご相談ください。