城北法律事務所 ニュース No.85 2022 新年号 (2022.1.1)

目次

<事件報告>労働事件 労使問わず
事件の早期相談・依頼がよい解決の近道

弁護士 津田 二郎

Aさんは、自動車部品販売店に勤務していました。

ところがある日Aさんが出勤すると、会社の経営者から、「あなたには横領の疑いがある。出勤しないでほしい。」といって、懲戒解雇すると口頭で伝えられました。途方に暮れたAさんから相談したいと連絡があったのは、その直後のことでした。理由の詳細などは全く教えてもらえませんでした。会社側の対応には明らかに誤りがありました。

私は、Aさんから事情を聞きとって、直ちに解雇が無効である旨と事情を聞く中で判明した2年間支払われていなかった残業代を支払うべきことを通知しました。

通常は、この時点で会社側から連絡があり、会社にも代理人が就くなりして、交渉が始まります。ところがこの会社は、通知が届いたのが遅かったことを理由として回答期限を延ばすように連絡してきたあと(通知書を内容証明郵便で発送すると、相手がいつその通知を受け取ったかが通知されるため、こちらはとっくに通知が届いていたことが分かっていました)、連絡がありませんでした。また、「弁護士に依頼した」というものの、その弁護士からも連絡がありませんでした。

そこで交渉での解決は不可能と判断し、労働審判を申し立てることにしました。Aさんは毎月の賃金が受け取れないので、早期解決が死活問題になるので機敏な対応が必要です。ようやく会社の代理人から連絡があったのは、労働審判の申立書を裁判所に郵送した、その日の夕方のことでした。ここまで懲戒解雇から1か月。会社の弁護士は、私が労働審判を申し立てたことを伝えると、それ以降何の連絡もしてきませんでした。

迎えた労働審判の日、Aさんは満足のいく金銭を受領して退職しての和解となりました。会社側は、Aさんに横領の疑いがあることなどを主張しましたが、本人に事実の確認もしなかったこと、その後全く対応しなかったことが決定的でした。

会社としては、Aさんの弁護士から通知が届いた時点ですみやかに弁護士に相談し、依頼すべきでした。受任した弁護士も速やかに私に連絡して交渉を開始すべきでした。会社は、速やかな相談と依頼と交渉開始を怠ったために、和解で解決するまでAさんに支払うべきだった賃金(バックペイ)も負担しなければならなくなってしまいましたし、再就職が見込まれる時期までの賃金数か月分も負担しなくてはならなくなりました。話し合いで解決していれば、実際に負担した金額の数分の1程度の負担で済んだのではないかと思います。

今回は労働者側で受任した事件でしたが、会社側で受任することもあります。その際には事実を調査した段階で会社側に非があればそれを前提として、できる限り経済損失がないような解決の助言をするようにしています。間違いをただすのに遅すぎることはない、早期に間違いをただすことが経営の安定と会社内外の信頼を高めると考えています。

何かお困りの際には、信頼のおける弁護士に早期にご相談されることをお勧めします。