城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

ともに表現の自由を守る
―「表現の不自由展・東京」弁護団の実践―

弁護士 田場 暁生

2022年4月、国立市で「表現の不自由展・東京」を無事に開催することができました。表現の不自由展とは、公共施設などで検閲や規制を受けた芸術作品を集めて紹介、展示する企画です。今回も従軍慰安婦を象った「平和の少女像」などが展示されました。

表現の不自由展は、2015年、練馬区で開催されましたが、2019年から21年にかけて開催が予定されていた名古屋、大阪では、抗議、脅迫、「郵便物破裂」などを理由に、会場の公共施設側などから一方的に中止等の対応がなされました。東京でも昨年、民間ギャラリーが開催前の妨害行動に耐え切れず、開催を断念しました。

会場の使用の制限は、憲法上、表現の自由の一形態・一環として保障されている「集会の自由」が問題となります。最高裁は「反対派による実力行使による紛争のおそれを理由に公の施設の利用を拒めるのは、警察の警備等によってもなお混乱を防止できないなど特別な事情がある場合に限られる」としています。大阪では、指定管理者の利用承認取消しに対して取消・執行停止を求めて裁判が提起され、裁判所は「妨害に対して警察による対応ができない事情は具体的に予測できない」から利用承認取消しを違法と判断して、施設利用が実現しました。

私は東京実行委員会の弁護団事務局的な立場でこの取り組みに関与しました。会場の使用申請承認を得た後、これらの司法判断も意識して、実行委員会・弁護団、会場の指定管理者、国立市の三者協議で合意を積み重ねてきました。

まず、中止の判断の際は実行委員会と協議をすることを合意し、議事録に残しました。また、民間の警備会社に相談した内容を踏まえ、「(抗議の電話には)公務員といえども氏名を名乗る必要はない」などとのノウハウを共有し、「妨害に対応不可能なので中止」という予想される会場側の言い分を事前に封じる様々な対策をとりました。さらに、実行委員会に対して脅迫メールが送られていたため、その被害届を出し、送信者には罰金刑が科されました。警察とも相当の協議を行い、全体として「妨害などがあっても基本的に中止はしない、できない」という共通認識を作り上げました。

会期中は、相当な妨害行為があったものの、事前に入念な準備をしていたことや約70名の弁護士が警備に駆け付けたことなどもあり、無事会期を終えることができました。

国立市は開催2日前に、ウェブサイトに「多様な考え方を持ったそれぞれの市民・団体が、法令に従い実施する様々なイベント・活動の場として、公の施設の利用は原則として保障されるべきもの」との考え方を表明しました。妨害行動などがある中、表現の自由は、私たち市民と自治体(会場側)の共同作業で守る一つのモデルケースとなったのではないかと思います。