城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

<法改正問題>成人年齢の引き下げとそこから生じる問題点
~AV被害と消費者被害~

弁護士 和田 壮一郎

2022年4月1日から、民法の改正法の施行により、成人年齢が今までの20歳から18歳に変わります。近年、公職選挙法の選挙権年齢や憲法改正国民投票の投票年齢を18歳と定めるなど、18歳以上の者に国政の重要な判断を参加してもらうための政策がすすめられてきたことが導入の経緯です。

18歳に成人年齢が上がったことで、携帯電話の契約、部屋を借りる、クレジットカードを作る、高額な商品の購入についてローンを組むなどの契約を自分の意思で締結できる点が大きく変わります。その他、10年間の有効パスポートの取得、公認会計士、司法書士、行政書士などの資格の取得、結婚年齢が男女ともに18歳になる(女性の婚姻年齢の引き上げ)ことや、性別の取り扱いの変更審判が受けられるという変化もあります。

一方、成人年齢が18歳であっても、飲酒、喫煙、ギャンブルに関する年齢制限は、これまでと同様20歳です。これは、健康面や青少年保護の観点からです。

契約については、未成年者は、日用品等の売買については一人で契約できますが、高額な商品などの場合は、親権者の同意が必要です。親権者の同意が必要な契約について、同意なしに未成年者が契約しても、未成年者取消権(民法21条)により取消ができます。
未成年者取消権が18歳以上では使えなくなったことで、若年の方が不当な契約を結ばされ被害を受けることが懸念されます。一つは、アダルトビデオの出演です。

未成年者取消権以外にも、騙されたということで詐欺と主張するなど方法はあったものの、AV業者も強要している場面などは証拠に残さないために泣き寝入りを強いられてきた実態がありました。

未成年者取消権を復活させようという動きから通常国会にアダルトビデオ被害防止・救済法案が提出され、衆議院を通過しました。この法案は、契約締結段階に詳細な説明義務を求め、撮影段階でも拒否できる、販売・配信の段階でも撮影終了後公表までは、4カ月を空け、出演者に映像を確認する機会を与えることや、無条件で違約金を払う義務を負わず契約を解除できる解除権を創設する内容となっています。一方、「契約による性交を合法化するのでは」という懸念は、様々な団体から寄せられました。法的に保護が厚くなった側面はありますが、今後とも被害者から見てよい制度になるように見直しは必要でしょう。

2つ目は、消費者被害です。独立行政法人国民生活センターが取りまとめた相談情報によれば、平成28年から令和2年まで契約当事者を18歳、19歳とする契約の相談件数は、毎年1万人を超えています。内容としては、「健康食品」「化粧品」「デジタルコンテンツ」「出会い系サイト」「アダルト情報サイト」というジャンルが多いです。

こちらも、成人になったばかりの方が騙されてしまうケースが想定されます。新たに成人になられる方は、契約の内容を見極め、大きな買い物の場合は家族等に相談するなどするべきでしょう。

それでも騙された場合も、契約の内容、経緯から、民法、消費者契約法により、取消など主張できる場合もあります。今の世間の風潮として「自己責任」という言葉が盛んに言われて久しいですが、どんなに気をつけていても人の言いなりになってしまう瞬間はあると思います。その場合は、ぜひ気軽にご相談ください。