城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

インボイス制度
~概要と問題点~

弁護士 湯山 花苗

1.インボイス制度の概要

インボイス制度とは、消費税における「適格請求書等保存方式」のことをいいます。現行の消費税の計算方法は、基本的には、売上時に計算される消費税額から仕入れ時に計算される消費税を差し引いて求められますが(仕入税額控除)、インボイス制度のもとでは、取引内容や消費税額など所定の記載要件が記載された請求書=「適格請求書(インボイス)」を保存することによってのみ、仕入税額控除が受けられることになります。適格請求書(インボイス)は、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。これにより、税の公平な分担を実現させ、免税事業者の受けていた益税を回収することによる税収向上が制度の狙いであると言われています。インボイス制度は、2023年10月1日から導入されますが、事業者がインボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」として事前の登録が必要とされており、その登録事業者の申請書提出は、原則として、2021年10月1日から2023年3月31日までに行う必要があります。

―国税庁「インボイス制度の概要」より引用―

〈売手側〉

売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。

〈買手側〉
買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイス(※)の保存等が必要となります。

(※) 買手は、自らが作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。

2.インボイス制度の問題点

適格請求書(インボイス)を発行できるのは「消費税の課税事業者」であり、かつ、「適格請求書発行事業者」に限定されるため、免税業者は取引の相手方からの求めがあった場合でも、適格請求書(インボイス)を発行することができません。免税事業者とは、基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者をいい、その期間における消費税の納税義務を免除される事業者で、いわゆる中小企業や個人事業主・フリーランスなどの小規模事業者です。

インボイス制度が導入されると、免税事業者からの仕入・物品購入や、役務提供などは仕入税額控除を受けることができなくなるため、買手側が免税事業者との取引をおこなわず、小規模事業者が取引先を失う可能性があります。免税事業者が、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで課税事業者になることが可能ですが、小規模事業者が今まで得ていた益税分の利益の減少と消費税納税にかかる労力が負担となるため、もともと実入りの少ない免税事業者にとっては、手取り減少に直結し、生活基盤を脅かすことになりかねません。

また、インボイス制度の導入目的が、「益税の解消」にあると考えると、簡易課税制度の廃止や縮小といった制度改革が、今後控えているのではないでしょうか。インボイス制度導入は、当面は簡易課税選択事業者の仕入れ税額控除には影響がないとしながら、益税として想起される簡易課税制度の変更への布石となっているのではないでしょうか。今後も目が離せません。