城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

今年4月から中小企業事業主にもパワハラ防止措置が義務化されました!
~パワハラによる就業環境悪化を防ぐのは事業主の義務です~

弁護士 深山 麻美子

1.労働施策総合推進法(令和元年成立)は、事業主に対して、パワハラ防止措置をとることを義務づけました(同法30条の2)。
この義務付けは、従業員300人以上の大企業に対しては令和2年6月から、従業員300人未満の中小企業は今年の4月1日から始まっています。

2.パワハラとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境を害する言動、をいいます。例えば、上司が部下を必要性相当性をこえて長時間厳しく叱責する行為や、部下を罵倒するメールを職場の複数人に送ったりする行為があげられます。ただ、パワハラに該当するか、しないかの判断が難しいケースも多々ありますので、弁護士に相談したり、厚労省のパワハラに関する指針やガイドラインを参考にしてください。

3.事業主に義務付けられたパワハラ防止措置は次の内容です。

(1)職場でのパワハラの内容と、パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること。また、パワハラ行為者に、厳正に対処する旨の方針と対処内容を就業規則等の文書で規定し、労働者に周知・啓発すること。

(2)相談窓口を設け、担当者が相談内容に適切に対応できるようにすること。

(3)職場でのパワハラに対して、迅速正確に事実関係を確認し、被害者への配慮措置及び行為者への措置を迅速適切に行い、事実関係が確認できなかった場合も含め再発防止の措置をとること。
(4)相談者・行為者等のプライバシー保護と、相談者が相談したため不利益取扱を受けないことを定め、労働者に周知・啓発すること。
です。
この防止措置義務は、事業主が雇用する全労働者を対象とし、非正規職員、パート、アルバイト、派遣、契約社員も対象に含まれます。

4.また、同法律は、事業主も労働者もパワハラ言動に関心と理解を深め、事業主は労働者の言動に必要な注意を払い、研修や国の啓蒙・広報活動に協力し、労働者は他の労働者の言動に必要な注意を払い、パワハラ防止措置に協力する責務があることを定めました。

5.なお、今回義務化はされませんでしたが、自社労働者が、自社労働者以外の者(他の事業主の雇用する労働者、個人事業主、インターンシップの学生、教育実習生など)に対してパワハラを行ってはいけないという方針を明確化し、必要な注意を払い、適切な相談対応をすることが望ましいとしています。

逆に、他の事業主の労働者や事業主、顧客からの著しい迷惑行為(脅迫、暴行、暴言等)により自社労働者の就業環境が害されないよう、適切な相談体制の整備や、被害防止のためのマニュアル作成、研修等の取り組みを行うことも望ましいとしています。

6.前述のとおり、中小企業事業主にも本年4月からパワハラ防止措置が義務化されています。この義務に違反した場合、厚労大臣からの勧告を受けたり、勧告に従わなかった場合には公表されるといったペナルティを受けます。また、もしパワハラが発生し、損害賠償等で訴えられた場合、会社の義務違反が問われます。

パワハラは、被害者・行為者双方の人生を狂わすことになりかねませんし、パワハラを蔓延させ放置することは就業環境を害し、ひいては事業の生産性を害することになりかねません。事業を円滑に遂行していくためにも、早急に、積極的に、パワハラ防止措置に取り組みましょう。