城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

<事件報告>最高裁、国の責任について否定(東電福島事故)
国の基準(中間指針)をこえる東電の賠償義務は確定

弁護士 菊池  紘

怒号と涙と

6月17日、東電福島第一原発の爆発で被害を受けた人々の集団訴訟4件(福島・生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟)の判決で、最高裁第2小法廷は国の責任を否定しました。「津波は想定外で仮に対策をとっても防げなかった」から「国に責任があるとは言えない」というものでした。最高裁を囲んだ人々からは怒号がわき上がり、他方で悔し涙がみられました。

判決は「仮定」に終始し、当時の知見に基づく対策としては防潮堤が設置された可能性が高く、仮に防潮堤が設けられたとしても、津波は想定より巨大であり事故を防げなかった、というものでした。

原子力安全後退招く判決

しかしこの判決は人々の納得をえるものではありませんでした。地元の福島民友新聞は「希望また奪うのか」「責任ゼロじゃない」とし、その解説で「争点となっていた津波の予見可能性についての言及はなく」判断を回避したことについて「予見可能性議論残ったまま」としました。そして「検討しなければいけない部分が欠落した肩すかしの判決と納得できない被災者は多いはずだ」と批判しています。福島民報もその解説で「争点言及なく重み欠く」と批判しました。原告側が求めた事故前の国の規制のあり方はおきざりにされたからです。河北新報は社説で「原子力安全後退招く判決だ」とし「『想定外』を理由に国の不作為が許されれば、原子力安全は確実に後退する。原発のこれからに深刻な不安を残す判決と言わざるを得ない」としています。

全国紙でも朝日は解説で「不作為のそしり免れない」とし、その社説は「『想定外』に逃げ込む理不尽」と厳しく非難しました。また毎日の社説も「国、免罪符にはならない」としました。

ただ一つの救いは朝日が「理は反対意見にあり」と書いたとおり、三浦守裁判官が反対意見(3対1)を書き、水密化措置は十分に可能だったと述べ、実効ある対策をとらない東電をそのまま放置した国の責任を厳しく指摘したことです。これは原告らの主張を受け止めたものでした。ここにこれから続く「生業第2陣」と各地の裁判の勝利の道があります。怒りの報告集会で、原告団をおおきく拡げ第2陣の裁判で必ず勝利しようと確認して、あらたな前進がはじまっています。

国の基準を超える東電の賠償責任が確定

これに先立つ3月に最高裁は別の裁判で東京電力の上告を退けたため、国の基準を超える東電の賠償責任が確定し、その支払いがされました。それまでの東電の支払いの基となった国の賠償基準(中間指針)が被害の実態に見合っていないことを、司法が認めたのです。この最高裁の判断を踏まえ、中間指針を改めることで、すべての被害者の損害を賠償し救済する課題が今あらたに生じています。