城北法律事務所 ニュース No.86(2022.8.1)

目次

<事件報告>不動産売買の媒介手数料の抜け駆けは許さない
控訴審で逆転勝利和解

弁護士 津田 二郎

不動産仲介業者の媒介行為をめぐる画期的な勝利和解の経験を紹介します。

【事案の概要】

① X社は、Aに対して、不動産物件の売り出し情報をつかんでこれを紹介するとともに、この物件(以下、「本件物件」といいます。)の所有者Bに対してAが購入希望であることを伝えました。

② AはBとともに現地調査をするなどした上で、売買金額についてもBと概ね合意し、AはBに対してX社を通じて買い付け証明を提出しました。

③ Aは、本件物件の購入に当たって融資を得る必要があったので、Bの紹介を受けて融資申し込みをしましたが、その金融機関で融資を得ることはできませんでした。そこで、X社はAに対して複数の金融機関を紹介するなどしました。

④ Aは、X社に紹介された金融機関ではない、いくつかの金融機関に融資を断られたことを理由として本件物件の購入を断念するとX社に伝えました。

⑤ ところが、その後AとBが本件物件の売買契約を締結して所有権を移転していることが判明しました。

⑥ そこで、X社は、AとBを相手に媒介手数料の支払いを求めて提訴しました。私は、X社から依頼を受けて代理人として担当しました(担当はほかに阿部哲二弁護士と加藤幸弁護士)。

【X社の言い分】

a ABはX社を通じて知り合ったのだから、ABが本件物件について売買契約に至ったのはX社の媒介行為があったからだ。

b 売買契約が成立すると報酬を支払わなければならなくなるから、ABはあえてX社を排除しようとしてAからX社に断りを入れたのだ。このような場合には民法130条が適用されて報酬全額が認められるべきだ。

c 仮にABの売買契約が別の業者の新たな仲介によって成立したとしても、代金額等の諸条件は、X社がまとめた範囲内に収まっているので、相応の割合の報酬が認められるべきだ。

【ABの言い分】
ア X社の媒介行為は、Aが断った時点で終了しているから、その後ABが本件物件の売買契約を締結してもX社の媒介行為とは関係ない。

イ AがX社に対して断ったあと、Z社が融資可能な金融機関とともに本件物件を紹介してくれたのであり、同金融機関で融資が下りたことで本件物件の売買契約が締結できたのだから、X社の媒介行為と売買契約の成立には因果関係がない。

【一審判決】

一審判決は、ABの本件物件の売買契約の締結は、ABがX社の報酬請求権の発生を妨害する意図をもって、Z社を媒介者として本件物件の売買契約を成立させたとしても、社会的相当性を逸脱するものとも認めるには足りないなどとしてX社の請求を棄却しました。X社としては到底受け入れられないと考えて控訴しました。

【控訴審】

控訴審では、「金額はともかくX社に対して報酬が支払われるべきと考えている」と心証が開示され、それを前提に和解協議を行いました。結論的に、X社の希望額(請求した報酬額から多少減額)で和解が成立し、報酬はしっかり支払われました。

【本件の評価】

ABは、誰と契約するかは自由競争の範囲内だという前提で、媒介契約書など形式的な書面しか提出せず、予定されていたZ社の担当者も証人尋問には来ませんでした。一審判決は、形式的な証拠にとらわれて、実際にどのように媒介行為が行われたのかの探求を怠ったためにX社の請求を認めなかったものと考えられます。

控訴審では、Z社が実際にどのような媒介行為を行ったのかを探求し、AがX社に断った時期とZ社がAに本件物件の売買を持ちかけたと主張する時期がわずか1ヶ月と近接していたこと、媒介当事者間の直接契約が「抜き行為」として不動産業界ではルール違反とされていること、Aが融資を受けた金融機関はX社が紹介したうちの1社であったこと、Z社が受け取ったとされる報酬が通常の1割以下と極めて低廉であってZ社が媒介行為を行ったことを明らかにする実質的な資料が何もなかったことなどが適切に評価されたものと思います。また和解に応じた背景には、判決後の回収の危険(支払われない)を回避することもありました。

抜け駆けを許さず、働いた分の報酬をきちんと払うという当たり前のことが認められて本当によかったと思います。