城北法律事務所 ニュースNo.87 2023新年号(2023.1.1)
目次
- Page 2
- 1 特集 憲法改正問題
- 2 日本の防衛費が倍になる!?
- Page 3
- 1 憲法9条を巡る議論(備えあれば憂いなし)について
- Page 4
- 1 弁護士に聞きたい どうして弁護士になったの?
- Page 5
- 1 <法律相談>今後のことや死後のことが心配です~財産管理契約、任意後見制度、法定後見制度、死後事務委任契約~
- Page 6
- 1 <事件報告>公務執行妨害事件で無罪獲得~不当な身柄拘束と自白の強要を回避し、公判で被害者警察官の嘘を暴く~
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- 1 <事件報告>弱者対弱者の対立構造を乗り越えて~生活保護引下げ違憲東京国賠訴訟(はっさく訴訟)勝訴判決~
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- 1 <法改正>侮辱罪厳罰化改正法施行と問題点
- Page 9
- 1 所員からのひとこと明けましておめでとうございます 2023年
- Page 10
- 1 <憲法企画>映画「サンマデモクラシー」上映会報告
特集 憲法改正問題
日本の防衛費が倍になる!?
弁護士 片木 翔一郎
1 日本の防衛費の実態
皆さんは日本の防衛費がどれくらいかご存知でしょうか。「なんとなく少なそう」というイメージを持っていませんでしょうか。
日本の防衛費は、長らくGDP(国内総生産)比で1%の枠内に収めるということが行われてきました。ときに1%を超えることもありましたが、少なくとも「1%に収める」ことは長年一つの共通認識とされてきました。しかし、政府は、昨年のロシアのウクライナ侵攻を受け、今後の防衛費を見直すこととし、「GDP比2%とする」ことを目標としました。これには2つの問題があります。
2 GDP比2%を目標とすることの問題点
一つは単純に防衛費が倍になるという問題です。そもそも、日本の防衛費が極端に少ないということはありません。1%という数字は小さく見えますが、これは予算ではなく、GDPの1%です。日本のGDPは現在年間500~600兆円程度ですので、防衛費は5~6兆円程度で推移しています。これは国債償還費を除いた実質的な年間予算に占める割合で言うと6~7%に上ります。これにはしばしば中国の船による領海侵犯に対処している海上保安庁の予算は含まれていませんから、これも含めればさらに大きくなります。こういった防衛費を2倍にするということは、実質的な予算のうち15%近くまで引き上げられる可能性があるということを意味します。
もう一つの問題は、これまでは一定の枠内に収めることを目標としていましたが、今後は一定の金額を使うこと自体が目標とされていることです。これは防衛費という予算の性格から考えれば由々しき事態です。経済政策であれば一定の予算の支出が目標となることはあります。それは社会の血液であるお金を市場に放出し行き渡らせること自体が目的だからです。しかし、専守防衛という立場から本当に必要な防衛装備だけを買うことが求められる防衛費において、予算を使うこと自体が目標とされるのは異常です。そうなれば、本来専守防衛に必要でない兵器まで買われることになるのは目に見えています。そうして積みあがった兵器の山を見た近隣諸国はどう思うでしょうか。これに対抗するために兵器を増やそうとするのではないでしょうか。
3 防衛力の代わりに失うもの
多くの方は、「中国が攻めてこないか不安ですか」とか「防衛費を増やして自衛力を高めた方がよいと思いますか」と聞かれると思わず「はい」と答えてしまうでしょう。しかし、国の財布は一つですからあちらを立てればそのぶんこちらが立ちません。防衛費を増やすということはすなわち税金を増やすか、社会保障費など他の有用な支出を減らすか(或いはその両方をする)必要があります。
「防衛費を増やした方がよいですか」という質問には「(税金を増やしたり他の支出を削ってでも)」という部分が省略されていることに注意が必要です。防衛費を増やすことは少子化を進め、国の未来を奪うことに繋がるかもしれません。これでは、守るための力(軍事力)をつけた結果、守るべきもの(国の未来)がなくなってしまい本末転倒です。
4 まとめ
防衛費について議論するときには、なんとなく増やした方がよさそうと抽象的に考えるのではなく、なぜ増やす必要があるのか、増やした結果本当に安全になるか、増やした代わりに失うものはないかなど、総合的に考える必要があります。