城北法律事務所 ニュースNo.87 2023新年号(2023.1.1)

<事件報告>公務執行妨害事件で無罪獲得
~不当な身柄拘束と自白の強要を回避し、公判で被害者警察官の嘘を暴く~

弁護士 結城  祐

この度、結城と和田が、早期の弁護活動に臨み不当な自白を回避した結果、被告人AがX巡査から挙動不審者として職務質問を受けた際、X巡査に対し、その頬を拳で1回殴る暴行を加え、X巡査の職務の執行を妨害したとする公務執行妨害被告事件において、令和4年9月2日に、無罪判決を獲得いたしました(確定)ので報告いたします。
 
1 逮捕、初回接見、勾留請求却下

令和3年10月28日、警察署から結城の知人Aが接見を希望しているとの一報が入り、私達が接見しました。A曰く、「X巡査より職務質問を受けたものの、クライアントとの待ち合わせ時間が迫っていたため、自転車で走り去ろうとしたが、X巡査に追いつかれて言い合いになり公務執行妨害で逮捕された。逮捕後の取り調べで、X巡査の左頬を右拳で殴打したのだろうと刑事から詰問され、いくら否定しても埒が明かない、仕事に差し障りがあるので、速やかに釈放してもらいたい」とのことでした。

私達からは、殴打していないのであれば認めてはいけない、早期の釈放を目指すと勇気づけました。

翌日、A母及びAが業務受託している会社代表にも協力いただき、10月30日に東京地方裁判所に意見書を提出したところ、東京地方検察庁の勾留請求を却下する決定が下され、Aが釈放されました。これにより、最長20日間の勾留がなくなり、不当な身柄拘束と自白の強要を回避することができました。

2 公判前の証拠の検討

ところが、令和4年1月、Aは起訴されました。
争点は、AがX巡査の左頬を1回殴る暴行があったかであり、この暴行について、目撃者等もなく、X巡査の証言が直接かつ唯一の証拠となることから、X巡査の証言の信用性が検討されることになりました。

私達は、検察官が請求した証拠だけではなく、検察官に開示させた被害者写真撮影報告書やX巡査供述調書を具に点検したところ、X巡査は、職務質問から自転車で逃走したAに追いついたが、Aが自転車から降りてきた途端に殴打してきたと主張していることが分かり、経緯が不自然などの数々の疑問が湧きました。

そこで、私達は、X巡査に対する反対尋問において、X巡査の供述が不合理であることを浮き彫りにさせることを目指しました。

3 公判での攻防、無罪判決

ところが、公判でX巡査は、Aが自転車から降りてきてから、防犯登録の確認に時間がかかっていたところ、Aから左頬を殴打されたと証言したり、殴打された場所も異なる旨証言したり、証言を大きく変遷させました。反対尋問においては、証言の変遷箇所やその内容が不合理であることなどを丁寧に確認していきました。
判決では、「弁護人も指摘するように」と私達の弁論を大筋で認め、「X巡査は自身の落ち度を咎められることを恐れて虚偽的供述をしたというのであって、このような捜査段階での起訴検察官に対する供述態度は、警察官という職務にある者の行動として不合理と言わざるを得ず…その証言の信用性を大きく減殺させる」、X巡査の供述・証言の中核部分の記憶が曖昧かつ不自然であり、不合理な変遷が認められるとして、その信用性を否定しました。一方で、被告人供述は自然であるとして信用性が肯定され、Aに無罪が言い渡されました。

4 さいごに

警察官が平気で虚偽供述をし、冤罪を生み出そうとしたという事実は戦慄すべきものでありますが、残念ながら、我が国において、本件のように捜査機関側により少なからず冤罪が作り出されているのです。我が国における刑事裁判における有罪率は極めて高く、第1審における有罪率は約99.9%に達すると言われており、今回も冤罪となる可能性が非常に高いものでしたが、早期にAを釈放でき、不当な身柄拘束と自白の強要を回避できたことが無罪につながったものと思います。

皆様の知人で逮捕された方がいらっしゃいましたら、すぐに弁護士にご相談ください。