城北法律事務所 ニュースNo.89 2024新年号(2024.1.1)

<法改正>フリーランス保護新法
~「雇用によらない働き方」への保護とともに労働者の権利擁護を~

政府は、安倍元首相のもとで始まった「働き方改革」の一環で「雇用によらない働き方」を研究、推奨しています。

「雇用によらない働き方」は、日本的な「終身雇用制度」ではなく、兼業・副業やフリーランスとして働くことで、働き手一人ひとりの個性や能力を生かしていくことにつながるなどと説明されています(経産省第1回「雇用関係によらない働き方について」配付資料)。

しかし、フリーランスなど雇用によらない働き方の実態は、働く人から労働基準法や労働契約法などの労働法規や憲法、労働組合法などの厚い保障を引き剥がし、働き手を分断して孤立させ、対等ではない契約関係を利用して、発注者がフリーランス等を安く、使い勝手のいい労働力として利用する状況が多く見られます。

そのため、フリーランスの地位は、収入や福利厚生、当事者の地位において、雇用の場合に比べて極めて不安定になっています。なお本来は雇用であるのに「業務委託」に名を借りて働かせる、働き方の「偽装」もよく行われているところです。

そこで不安定な地位にあるフリーランス等の保護を図るため、2023年4月、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス保護新法。以下、「新法」といいます。)が制定され、フリーランスの人々が不当に不利益を被らないよう委託をする企業側が環境を整えることとされました。フリーランス等は、従来下請法の範囲で保護されており業種によっては保護を受けられない場合もありましたが、新法によって、下請法で規制の対象外となっていた業種も保護されるようになりました。
新法は、執筆時(2023年10月)現在まだ施行されていませんが、2024年10月までの間に施行されることになっており、施行日以降の取引について適用されることとなっています。

新法では、業務委託の相手方として個人のフリーランスや個人事業主などのほか、自ら会社を立ち上げて従業員を雇用せずに業務を行っている一人社長も保護の対象としています。業種は問われません。
そして、従業員を雇っている個人や法人など特定委託事業者(特定受託事業者に業務を発注する者)が特定委託事業者(フリーランス)に業務委託した取引が保護の対象になります。フリーランス間の取引は保護の対象外となります。

新法は、企業がフリーランス等に業務を依頼する際に、給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示することや、給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し支払うことなどの義務を課し、正当な理由なく指定したものを購入させたり役務利用を強制したりすることを禁止するなどの禁止規定を定めています。違反行為については、助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができることとされています。詳細は、内閣官房のホームページに掲載されていますのでご参照ください。

内閣官房のホームページ
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」はこちらからhttps://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/index.html

新法の制定、施行によってフリーランス等の待遇が改善されることが期待されますが、それでも憲法や労働法制によって保護される労働者とは、根本的に差異があると言わざるを得ません。フリーランスの地位向上とともに、働いている実態や働き手の要求に即して、労働組合などと連携して、兼職・副業なく生活できる雇用環境をつくるための世論を盛り上げることも必要だと思います。