城北法律事務所 ニュースNo.90 2024夏号(2024.8.1)

<法律相談>
〈相続事件の法律相談 連載企画 第3回〉
相続財産の分け方 ~遺産分割協議における遺産の評価、特別受益、寄与分、遺留分~

弁護士 加藤 幸

今回は、相続財産を分けるときに問題となる遺産の評価と、公平な遺産分割を実現するために民法が用意している特別受益と寄与分という二つの調整制度、そして、一定の相続人に認められている最低限の遺産取得分である遺留分についてお話しします。

1 遺産の評価

遺産の評価が問題となるのは、不動産が多いと思います。現金や預金はそのままの額が評価額となりますが、不動産の場合、一律に評価額を決めることができません。そのため、固定資産評価額、相続税評価額、公示価格、地価調査標準価格などの公的な評価基準をもとに、相続人が合意できる評価額を決めます。ただ、個人でこれらの基準から遺産となる不動産の価格を算出することは難しいので、不動産業者に価格査定を依頼し、その価格を評価額として合意するという場合も多いです。

遺産分割調停でも、相続人が不動産業者の査定書を出し合い、その中間的な価格で合意をすることがあります。ただし、複数の相続人が提示した査定額に開きがあり、評価額の合意ができない場合は、裁判所が選任した鑑定人に鑑定をしてもらうことになります。

2 公平な遺産分割のための調整制度

(1)特別受益による調整

相続人の中に、被相続人から生前贈与や遺贈を受けた人がいる場合に、これを考慮せずに遺産分割を行い、贈与を受けた人も他の相続人と同じだけの遺産を受け取れるとすると、贈与を受けた分だけその相続人が得をすることになり、不公平が生じます。

そこで、相続人の中に贈与を受けた人がいる場合、これを遺産の前渡しとみて、贈与を受けた人が相続する金額を、贈与で得た利益の分(これを「特別受益」といいます)だけ、他の相続人より少なくすることで調整する制度があります。

(2)寄与分による調整

相続人の中に、相続財産の維持や増加に通常期待される程度を超える貢献(これを「特別の寄与」と呼びます)をした人がいる場合、その寄与分に応じて、貢献をした人が受け取る相続額を多くすることで相続人間の公平を図る制度です。

寄与の類型には、家事従事型、金銭出資型、療養看護型、財産管理型などがありますが、いずれの場合も「通常期待される程度を超える貢献」があったといえる必要があり、家族として通常期待される程度の貢献では寄与分は認められません。

3 遺留分

遺留分とは、相続人に保障された最低限の遺産相続分のことをいいます。  

例えば、相続人が子ども2人のみという場合、遺産をすべて長男に相続させるという遺言があったとしても、次男は遺産の4分1に相当する金額を遺留分として支払うよう長男に請求することができます。これを遺留分侵害請求といいます。

このため、相続後の紛争を防ぐためには、遺言を作成する際に遺留分を侵害しない内容とすることが望ましいです。

4 遺産分割で疑問点が生じたら

遺産分割の内容は、遺産の内容、相続人が誰か、遺言書の有無などによって、ケースバイケースです。専門的な知識が必要となる場面が多いので、遺産分割協議において不明点が生じた場合は、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。