城北法律事務所 ニュースNo.90 2024夏号(2024.8.1)

弁護士に聞きたい どうして弁護士になったの?

弁護士 木下 浩一

1 依頼者の方から、何で弁護士になろうと思ったのかと聞かれることがあります。

司法書士をやっていた際に、弁護士でなければ対応できないような事案がよくあったのでというようなご説明をすることが多いですが、もう少し詳しくお話します。

2 大学卒業後、紆余曲折ありましたが(悪いことは断じてしていません)、司法書士試験に合格し、埼玉県の司法書士事務所で勤務しました。

司法書士は、主に法務局に提出する登記申請の書類を作成する仕事です。例えば、相続が発生した際に不動産の名義変更をしたり(不正確な表現です。ちなみに相続登記等の申請が義務化されましたのでご留意を!)、会社を作ったときに設立の登記申請をしたりします。しかし、司法書士も、更に別の試験に合格すると一定の範囲で裁判業務を行うことができます。折しも過払い金ブームであり(払いすぎた違法金利分を貸金業者に返還請求できますがこれが過熱していた時期でした)、勤務先では、登記業務だけでなく、裁判業務も多数扱っていました。

過払い金ブームは、これを取り扱う一部の弁護士・司法書士の過剰な広告宣伝や杜撰な業務処理により、あまり良くないイメージもあります。しかし、高額な利息や過剰な取り立て、多重債務、貧困という本来的には消費者問題の中心にあった話の延長線上にあります。当事者はもちろん、真面目に消費者問題を取り扱う弁護士・司法書士等様々な支援者が長い間闘い、有意義な判例等を積み重ねた結果です。過払い請求のみならず、債務整理の問題も取り扱う中で、貧困問題等に関心を持ち、勤務先の司法書士事務所の所長の勧めもあって、埼玉司法書士会の消費者問題委員会に所属することになりました。そこで、生活保護の水際作戦問題(受給資格がある人に対し福祉事務所の窓口で申請させないよう違法な指導・助言をすること)等に取り組む司法書士さん達と出会い、その活動に感銘を受けました。また、弁護士・司法書士・精神保健福祉士などが、法律上・生活上・精神上の問題等のお話を聞く相談会に相談員として参加するようになります。ご相談内容は大変重大なもので、相談会後は、心身ともにくたびれ、問題解決に近づけたとの手応えが無いことも多々ありましたが、今までに無い充実感のようなものを感じました。それと同時に、ご相談内容は、刑事や家事事件といった、司法書士の権限では対応が難しい内容もあり、弁護士になりたいという気持ちが強くなっていきました。

3 その後、司法書士を辞め、ロースクールに進学し、司法試験に合格するまでは割とスムーズに進みました。勤務先の司法書士事務所からは気持ちよく送り出して頂き、人間関係にも恵まれ、強いモチベーションが支えとなったと思います。

4 この度、何で弁護士にというテーマの原稿を書くことで、相談会後の夜中の大宮駅のホームで、疲労困憊の中、弁護士になろうと決意したあの頃の自分から見つめられているような気持ちになりました。点数をつけられましたが、言い訳せずに向かい合おうと思います。