城北法律事務所 ニュースNo.90 2024夏号(2024.8.1)

<事件報告>商店街、自然公園を壊す道路はいらない!
~裁判に敗れても、住民本位の街づくりの活動は続けていきます

弁護士 大山 勇一

1 住民無視の東京都道路計画

東京都は、2015年2月、住民との協議を置き去りにしたまま、都内に新たな道路(特定整備路線)を建設する計画を認可しました。この認可の根拠として持ち出されたのは、70年も前の戦災復興事業でした。しかし、敗戦直後の状況と今とは大きく生活環境が変わっています。道路建設を強行すれば、良好な住環境、地域の結びつきが破壊されることは明らかです。そこで、都内の住民がこの計画をストップさせるために声を上げました。城北法律事務所は、この道路計画のうち、板橋区大山に計画された「26号線」と、北区赤羽西に計画された「86号線」について、認可処分取消の裁判を担当しました。

2 「大山ハッピーロード商店街」を守ろうの声

「26号線」が計画された板橋区大山には、「がんばる商店街77選」にも選ばれた「大山ハッピーロード商店街」があります。この商店街は、東西に長く連なるアーケードが特徴で、お年寄りからベビーカーを押す親子連れまで安心して買い物ができると評判ですが、「26号線」はこの商店街を中央で分断するものでした。商店街で生業を営む住民や商店街で買い物を楽しむ住民が原告となって裁判に参加しました。

裁判での審理を通じて、道路建設の矛盾が明らかになりました。「交通の円滑化」のためと言いつつ、東武東上線との「開かずの踏切」の立体交差化が放置されたままであったこと、道路拡張は火事の延焼を防ぐためと言いつつその効果は期待できないことなど、数えきれないほどです。また、この商店街では、住民と板橋区が協議して「大山まちづくり総合計画」を策定するなど、丁寧な議論と合意形成のうえで街づくりを進めてきましたが、今回の事業計画は、こうした討議や手続きを踏みにじるものでもありました。

3 「稲付城址」「自然観察公園」を守ろうの声

他方、「86号線」が計画された北区赤羽西には、太田道灌が築城した稲付城址があり、その中の「静勝寺」周辺は東京都文化財に指定され、地域住民が散歩をしたり花見をしたりする憩いの場となっています。また、「赤羽自然観察公園」は、住民が自然に触れることのできる貴重な場所として親しまれ、東京都の名湧水57選に選ばれている湧水があり、カワセミなどの野鳥も数多く飛来する場で、「スポーツの森公園」と一体となって住民に親しまれてきました。しかし「86号線」は、稲付城址の真下にトンネルを通し、自然観察公園とスポーツの森公園を分断するものです。良質な自然環境を守るため、稲付城址や自然観察公園を利用する住民、「弁天通り」沿いに居住する住民が原告となって裁判に参加しました。

裁判での審理を通じて、トンネル工事の工法すら確定していなかったこと、弁天通りに道路が作られることで地下水脈が分断され地盤沈下が生じる恐れが生じるがその対策が取られていないこと、湧水が枯渇する恐れについても対策が取られていないことが次々と明らかになりました。

4 住民の運動は今後も続く

裁判はいずれも最高裁までたたかわれましたが、裁判所は事業認可を取り消す判断は一度も示さず、残念ながら裁判は終了しました。しかし、この訴訟を通じて、事業計画の不合理性が明確になり、多くの都民に問題点を知らせることができました。裁判には負けましたが、板橋区大山の住民も、北区赤羽西の住民も、道路建設の取消しを諦めてはいません。署名活動も続けていますし、都議会でもたびたびこの問題は取り上げられています。道路計画をはじめとする公共事業を住民本位のものとするため、私たち城北法律事務所のメンバーも、住民と一緒になってこれからも運動を続けていきます。