城北法律事務所 ニュースNo.90 2024夏号(2024.8.1)

<事件報告>「原発事故は国の責任」
この当たり前の判断を求めて

弁護士 平松 真二郎

最高裁判所第三小法廷は、2024年4月10日付で、福島第一原発事故について国の責任を問うていた「いわき市民訴訟」について、原告らの上告を棄却する決定を行いました。原発事故について国の責任を問う訴訟では、先行する生業訴訟等4事件について、最高裁第二小法廷が、2022年6月17日、国の責任を否定する判決を言い渡しています。
私が担当している原発事故によって福島県内から東京都内へ避難を余儀なくされた原告らが提訴している東京一陣訴訟についても、東京高裁において、2023年12月26日に国の責任を否定する判決が言い渡され、現在、最高裁に上告及び上告受理申し立てを行って係争中です。

東京高裁判決は、法律研究者から「因果関係要件の起点である、規制権限不行使の違法についての判断をおろそかにした」もの、さらには「省エネ判決」、「速やかに変更されるべきである」など多数の批判が寄せられている最高裁6・17判決の多数意見に、結論のみならず、その言い回しまでコピーアンドペーストして、国の責任を否定しています。このような東京高裁判決は、6・17判決の多数意見に盲従したものであり、裁判官の独立を放棄し、その職責を果たさなかったものとして厳しく批判されなければならないと思います。

ところで、最高裁6・17判決の多数意見を形成した裁判官のなかには、判決後最高裁判事を定年退官し、東京電力の経営陣の責任を問う株主代表訴訟において、訴訟参加している東京電力の代理人がいる巨大法律事務所に顧問として天下りした者、東京電力の社外取締役を輩出している巨大法律事務所から最高裁判事に任命されている者、東京電力代理人を務める事務所に所属した後、行政官庁に任官し、その後、最高裁判事に任命された者が含まれています。多数意見に与した裁判官らが原子力事業者の顧問や代理人を務める巨大法律事務所と結びついていたのです。そのことが国を免責する判断と直接結びつくものではないかもしれませんが、最高裁6・17判決が公正・公平・中立、司法の独立を欠いた不公正で偏頗な判決だったのではないのかが国民目線から厳しく問われなければなりません。

不公正な判断であったことが疑われるとはいえ、最高裁6・17判決の多数意見で国の責任が否定される判断が示されたことは重くのしかかります。

最高裁6・17判決後、これまでに出された下級審判決(高裁8件、地裁3件)の判決は、いずれも多数意見の結論のみに漫然と従い、国策に追随する硬直的な判断に堕しています。

原告らが国の責任を問う訴訟を起こしたのは、福島原発事故のような過酷事故を絶対に繰り返さない、そのために責任の所在を明らかにするためです。

最高裁6・17判決をはじめとして、原子力発電の特質をふまえないまま、国が免責されるのでは原子力安全規制は弛緩し、今後も原発事故を防ぐことはできないだろうと思います。「福島原発事故は国の責任」。この当たり前の判断を求めて、最高裁6・17判決とは異なり国に責任ありとする判断が示されるよう、全国でたたかわれている福島原発事故について国賠責任を問う訴訟を続けている訴訟団とともに、福島原発事故に対する国の責任を明らかにする取り組みを続けていかなければと考えています。