労働契約法改正
有期労働契約の無期への転換
弁護士 大山 勇一
昨年8月に労働契約法が改正され、契約社員のように期間が定められて雇用されている労働者の契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申込みによって、期間の定めのない契約(無期契約)に転換させることができるようになりました(新労働契約法18条)。たとえば、半年ごとの更新で9回更新(合計で5年間ですね)されてきた労働者は、次の更新後(これにより契約期間が5年を超えます)に、会社に対して「期間の定めのない労働契約にしてください」と申し込めば、会社はこれを拒むことができずに承諾したものとみなされます。いったん「期間の定めのない労働契約」が成立すると、当然、その労働者を雇止めすることはできなくなります。また、労働契約法16条により解雇も厳しく制限されます。
この改正は、非正規労働者の地位の安定化という意味では一歩前進ではありますが、充分なものとはいえません。無期転換後、必ずしも正規労働者の労働条件へ引き上げられるものではないとされているため、正規労働者と同じような仕事をしている場合であっても、従来からの劣悪な労働条件が押し付けられた状態が続く可能性があります。これは同一労働同一賃金の原則に反するものと言わねばなりません。また、有期契約の途中に6か月以上の空白期間(クーリング期間)があると前の契約期間を通算せず、また初めから5年間を計算しなおさなければなりません。これでは会社が意図的に期間を遮断してくることが考えられます。さらに、4年11か月目で雇止めをされてしまうと、この無期への転換権を行使することができません。
非正規労働者を取りまく困難な状況を改善するためには、そもそも有期労働契約は臨時的・一時的業務に限定し、恒常的業務を扱う労働者は初めから期間の定めのない正規労働者の雇用を義務付けるなどの抜本的な労働契約法の改正が必要だと言えるでしょう。
「雇止め法理」の法定化
弁護士 大八木 葉子
1年、6か月など期間の定めのある労働契約のことを「有期労働契約」といいます。昨年、この有期労働契約に関して労働契約法が改正されました。
この改正のポイントは3点ありますが、ここでは、そのうち「雇止め法理の法定化」についてご説明します。
有期労働契約の場合、使用者が更新を拒否したときは期間満了により雇用が終了してしまいます(これを「雇止め」といいます)。そのために、有期労働契約で働く多くの方が次は更新されるのか、更新を拒否されてしまうのかと雇止めの不安にさらされており、この雇止めの不安解消が課題とされています。
そのために、これまで、労働者保護のために最高裁判例が一定の場合に雇止めを無効としてきましたが、今回の改正で、この最高裁判例上のルール(雇止め法理)がそのままの内容で法律に規定されました。
具体的には、
①過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
②労働者において、有期労働契約の期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの
のいずれかの場合には、使用者が雇止めをすることが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが認められず、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されます。このルールが適用されるには、労働者の方で有期労働契約更新の申込みをしなければなりません。
この規定は、昨年の8月10日から施行されています。労働者の方が安心して働き続けられるように労働者も使用者も改正されたルールを知る必要があります。
不合理な労働条件の禁止
弁護士 田村 優介
今回の労働契約法改正では、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることが禁止されました(労働契約法20条)。
有期契約か無期契約か、という違いで差別がなされるのは不当であるため、これを是正しようという改正です。
判断の方法としては、下記の①~③の事情を考慮して、取り扱いの区別が合理的なものかを判断するとされています。
①職務の内容
(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲
③その他の事情
この基準は各種の要素を幅広く取り込むことができるため、今回の法改正により、さまざまなタイプの差別的な取り扱いを裁判などで問題にできるようになる可能性があります。
一方で、職務内容などの恣意的な解釈により、結局実効的な差別是正ができないのではないか、との危惧も持たれています。
対象となる労働条件は、賃金や労働時間などだけではなく、災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など、労働者の一切の待遇が含まれるとされています。
なお、この点に関して、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、通常は合理的な理由が考えられませんから、特殊な事情がない限り、合理的とは認められないと考えられています。
どこまで実効性があるのか、という点に課題を抱えていますが、不合理な差別をできるだけ是正できるよう、今後、検討・実践を重ねていく必要があるでしょう。