残業代ゼロ問題
「残業代ゼロ」法案の導入に反対します
弁護士 大山勇一
労働者は1日8時間、週40時間、週休1日の労働時間規制で守られており、時間外や休日に働くと割増賃金の支払いを受けます。これは長時間労働に歯止めをかけて労働者の命や健康を守るとともに、家庭生活や社会生活との調和を図るためです。
残念ながら、労働時間規制は今でも充分に守られておらず、「サービス残業」が横行していますが、安倍政権は、「新たな労働時間制度」を導入して、労働時間ルールの適用を受けない労働者を作ろうとしています。
対象とされている労働者は960万人(年収400万から999万円層)。年収450万円の労働者で月平均30時間残業した場合、年間90万円近くの残業代がゼロになってしまいます。
かつて安倍政権が「ホワイトカラー・エグゼンプション」という事務系労働者に対する残業代ゼロ法案の導入を企てたこと(2007年)を覚えていらっしゃるでしょうか。舛添厚労大臣(当時)は、「この法律によって残業は減って家族の団欒が増える」と説明しましたが、国民の多くはこれがまやかしだと気が付き、法案提出断念に追い込みました。同様の法案がまた提出されようとしているのです。
「成果に応じた適正な報酬が確保される」との安倍政権による説明は鵜呑みにはできません。目標が達成できなければいつまでも「ただ働き」が強要されます。また、せっかく目標を達成したとしても「相対評価」を名目に周囲との賃金格差が正当化されかねません。そもそも上司による評価がいつも公平だとは限りませんよね。
さらに、会社に労働時間管理の義務が課されないとなれば、仮に過労死となった場合でも、その従業員がどれだけ長時間働いたかを確認する書類もデータも存在しないということになり、労災の補償も受けられなくなるのです。
長時間労働が今以上に蔓延することになる「残業代ゼロ」法案の提出を絶対に阻止していきましょう。
子ども・子育て支援新制度
「質」の問題が置き去りに
弁護士 大八木葉子
消費税が8%に上がったばかりですが、消費税率10%引き上げの時期を踏まえ、早ければ平成27年度に「子ども・子育て支援制度」が本格的にスタートします(予定)。
この新しい制度は、「認定こども園」の普及を進める、待機児童解消対策、などすばらしいことが実現されそうですが、実は、大きな問題があります。
たとえば、保護者は、認定子ども園や公立保育所と直接契約して、施設・事業者に保育料を支払うことになります。市町村は調整を行う立場にすぎません。
また、受け入れ人数といった「量」に重きが置かれています。もともと、わが国の子どもの予算は他の先進諸国に比較し少なく、保育所の職員配置基準や面積基準も先進諸国に比較して低いのですが、新制度でも「質」の問題が置き去りにされています。
子どもが大切にされ、安心して子育てができる社会をめざすには、市町村の保育実施責任を維持させ、より充実させる方向をめざすべきだと考えます。今回の新制度は、このめざすべき方向とは異なるのです。
しかも、この制度の財源は消費税率引き上げによる増収分から充てられる予定です。子どもが大切にされ、安心して子育てができる社会をめざすには、子育てを行う世代の経済的負担をより軽減させる方向をとるべきではないでしょうか。
派遣法
派遣法改悪は正社員削減法案
弁護士 田村優介
現在の労働者派遣法では「派遣先が同じ業務に継続して派遣労働者を受け入れることができる期間は「原則1年(最長3年)」というルールがありますが、いま、政府はこのルールを撤廃しようとしています。政府が現在進めようとしているのは、派遣労働者を期間無制限に、「一生」でも「派遣で使い続けられるようにする法改正です。
派遣という労働形態は、企業が必要なくなればいつでも都合よくクビにすることができ(リーマンショックの際は「派遣切り」という言葉が一世を風靡しました)、賃金も安い制度です。
期間制限がなくなれば、ブラック企業にとっては派遣形態がますます使いやすいものになり、派遣労働者が増加することは確実です。
派遣法の改悪によって、学校を卒業して派遣労働者になるのが普通の社会が到来し、正社員が激減することが危惧されます。
一方で、残された正社員はどうなるでしょうか。
ブラック企業は、派遣労働者が増加し、正社員を希望する人が多いことにつけ込み、「がんばれば正社員にしてあげる」との甘い誘惑で、過酷・ブラックな働き方を強い、労働者も正社員になりたいあまりこれに応じて奴隷のように働かされてしまうおそれがあります。派遣法改悪はブラック企業推進法そのものなのです。
派遣法は現在派遣労働者として働いている人だけの問題ととらえてしまいがちですが、実は派遣労働者だけの問題ではなく、働く人みんなの問題なのです。このような派遣法改悪は絶対に認めることはできません。