立憲主義と法の支配
閣議決定による解釈改憲は違憲無効である
弁護士 平松真二郎
1789年7月14日パリ市民が蜂起しフランス革命が始まりました。8月26日には憲法制定国民議会で「フランス人権宣言」が採択されます。人権宣言16条では「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもたない」と述べられ、「憲法」が人権を保障するための最高法規であることが確認されました。そして「憲法」に立脚した国家運営が「立憲主義」と評されるようになりました。
その後、「立憲主義」は、ドイツワイマール共和国の崩壊など幾度かの危機を経て、形式的に憲法に立脚しているだけでは足りず、さらに強固な内容をもつ「実質的立憲主義」として、「憲法」は一般の法律より上位の法として制定されることを求め、その「憲法」の内容が、国家権力を制限する規範であること、個人の権利自由を確保する手段が組み込まれていることが要求されるようになりました。日本国憲法も、13条や97条で個人の権利の不可侵性が規定され、98条で憲法の最高法規性が規定されており、「実質的立憲主義」に立脚した「憲法」です。
一方で、中世ヨーロッパではすでに「法の支配」の萌芽が芽生えていたといわれています。「法の支配」は、「人の支配」と対立する原理です。法の支配は、権力が為政者の恣意的な意思によってではなく、予め存在する「法」に従って行使されることを要求します。ここでいう「法」は、「良き旧き法」として慣習法として客観的に存在する正義として現れるものです。この「法」には、国王といえども従わなければなりません。この「法の支配」の考え方は、慣習法として存在していた「良き旧き法」の内容が「憲法」として結実し、「憲法」が最高法規性をもつことによって、日本国憲法にも受け継がれています。この「法の支配」の下では、憲法に反する法令等を違憲と判断する国家機関が設けられます。日本国憲法でも81条で、最高裁判所が憲法適合性判断をする終局の裁判所であることが規定されています。基本的人権の尊重(13条、97条)、適正手続きの保障(31条)、憲法の最高法規性(98条)そして違憲審査権(81条)の規定を持つ日本国憲法は、「法の支配」が貫徹された「憲法」です。
「実質的立憲主義」の考え方からも「法の支配」の考え方からも、行政機関に過ぎない安倍内閣が閣議決定に基づいて憲法9条1項に違反する内容の法令の制定あるいは行政行為を行ったとしても、法理論上は、違憲の国家行為として憲法98条により無効といわざるを得ません。安倍首相は、自らが最高責任者だから安倍内閣の閣議決定による解釈改憲が許されるかのような発言を繰り返していますが、「憲法」を貫く原理を理解しないものであって、到底容認できるものではありません。
集団的自衛権のキケンな内容
集団的自衛権を行使させない取組みを
弁護士 田場暁生
7月1日、安倍首相は「国民を守る」「抑止力が高まる」などと強調して、集団的自衛権の行使容認を閣議決定しました。集団的自衛権は、日本が直接攻撃されていないにもかかわらずアメリカなど他国に対する攻撃に対して日本が反撃する場面で問題となります。戦後、憲法9条のもと日本政府も、集団的自衛権の行使は憲法違反であるとしてきました。私も閣議決定は立憲主義に反し許されないと考えますが、閣議で決定された行使の条件は、戦後の経緯や国民の強い反対もあり、かなり絞り込まれたものになっています。そのため、国民が政府にこの条件を忠実に検討・適用させることができれば、集団的自衛権を行使する場面はあまりないと評価することも可能です。
しかし、集団的自衛権を行使するかどうかは政府が判断します。昨年末に秘密保護法が制定された今、私たちが軍事行動の基礎となる情報を得ることはいっそう困難になります。また、日本は今まで一度もアメリカの戦争に反対したことがありません。アメリカは、イラクが大量破壊兵器をもっていることなどをイラク戦争開戦の根拠としました。しかし、そもそもイラクには大量破壊兵器はありませんでした。日本政府は、この違法な戦争を支持・加担したにもかかわらず、いまだに何の反省も検証もしていません。こんな無法な戦争にすら、まともな判断や検証ができない日本政府。集団的自衛権の行使に実効的な歯止めはないと言わざるをえません。
「尖閣諸島を中国から守るために、アメリカと共同して対処する必要がある。だから、集団的自衛権の行使が必要だ」などという意見があります。しかし、集団的自衛権を持ち出すまでもなく、日本の「領土」に対する攻撃は個別的自衛権の行使で足り集団的自衛権は問題となりません(もちろん、そうならないような外交的努力が必要であることは言うまでもありません)。また、アメリカは無人の岩にすぎない尖閣のために中国と衝突することを望んでいません。今や互いに2番目となる貿易パートナーである米中。米ソ冷戦の時代とはまったく状況が違います。
「集団的自衛権の行使をアメリカが望んでいる」と言われています。財政事情から世界の警察官でいられなくなったアメリカが日本にヘルプを求めているのは事実です。しかし今、日本の首相は安倍さんです。安倍首相は、先の大戦が侵略だったかどうかについてすら「後世の歴史家が判断する」と言います。大戦の侵略性を否定する靖国神社にも参拝しています。戦後日本の出発点すら否定する好戦的な安倍首相の下で集団的自衛権の行使が認められたことについては、アメリカの関係者も憂慮しているのです。
このように多くの問題点があるため、集団的自衛権行使の容認については、全国すべての弁護士会が反対の声明を出しました。現実に集団的自衛権を行使するためには、関係各法の改正など今後多くのハードルがあります。集団的自衛権の行使をさせないような取り組みをしたいと思います。